【連載:クマでも読めるブックレビュー】「メタバース進化論」バーチャル美少女ねむ~下駄はかせることなくメタバース分野に挑んだ書 | ページ 2 | ゲヲログ2.0

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「メタバース進化論」バーチャル美少女ねむ~下駄はかせることなくメタバース分野に挑んだ書



メタバース統計調査に潜む課題

次章以降、行った統計的調査内容を元に事実に即して書かれているのにもたしかな説得力があります。この統計調査は標本誤差から相関の初歩(初歩中の初歩ですが)まで抑えていて、ねむ氏の統計力の堅実さが出ていると思います。たしかに統計調査をVRユーザに向けて行うという行動自体は画期的ですが、新しい手法、というか媒介空間を用いているわけですから、今後どうやってVR上で統計調査を行えばいいかについては賛否両論が出そうです(この種の調査はこれまでにない形式ともいえるため)。中室教授が言うように人は騙せてもデータは騙せませんから、このあたりの堅実さはむしろ、ねむ氏の実力としていいのではないだろうか?とも思う。地域性に着目し誤差も加味して、なるべく正規化するなど、それなり客観的です。まぁ二章まではこんな感じか。

VR・アバター・それとアイデンティティ

第三章では、VRとアバターに関してですね。あたしは前からVRは足系のトラッキングが不十分だと述べてきましたが、そうでもないんですね。本格派のVRユーザはしっかり全身トラッキングを活用しているようです。この章は大体がその程度の基礎的な事案であり、書籍として本論に入る前に復習がてら読むべきものなようです。第四章からは、性別の表現・その理由などアイデンティティにまつわる話ですね。ここも統計をもとに書いてあるので、説得力があります。後尾に、ねむ氏のアイデンティティの考え方・端的に言うとイデアの論が書かれていて、思想的な付記がなされている。

本書の提示する多角的経済性の追求の甘さについて

第五章および第六章は、コミュニケーション論だとか経済性だとか、そういった類の話です。ちょっとコミュニケーション論が論じられている第五章はあまりピンときませんでした。なぜかっていうと、あたしにとっては意外すぎる部分が多く割かれて書かれていて、実感がなかったからです。興味・関心のないものには単にそれを示せない、というだけの理由付けですが、この欄でも調査に基づいていろいろと書かれており、事実性に即しこれまた発展的な判断が書かれている、という点では堅実です。経済に関しては賛否両論だと思います。例えば、今現役のミクロ・マクロの経済学者にこの手の話をしてもあまりピンとこないでしょう。経済学者がメタバースを専門としている場合は例外ですが、例えば、現実の世界でも脳神経経済学だとか量子経済学だとかそういった新領域にアップアップしているのが現実だと思います。ですので、メタバース専門の経済学のような新領域に挑戦している学識者は数少ない(あるいはぶっちゃけメジャーな経済分野ではない)と思う。あたしのようにメタバースに、初めて本格的な論書を当たった人間に関して言えば、若干飛躍がありそうかな?とも思いました。実人格の分権という意味では面白い内容ですが、現状経済学者はこの分野に新規性をあまり見いだせてないのが現実だと思った。むしろそこをどう繋ぎ・現実問題とリンクさせるか?という意味においての可能性こそ今すぐに追及するべきではないでしょうか。まだ、世界の再構築という意味では、その仮想上まで現状の理論追いついていない気は致しますから。

BMIに潜むリスクと危険性

第七章は、まさにそのメタバースゆえの人間の分権のありかたについて、身体からどれだけ概念が移転していくのかを追った章になっています。この分野では実際に応用されている、BMI(ブレインマシンインターフェース)とかのことが書かれていて、現実との対比という意味ではある程度は追えています。ただ、希望的な観測だけではないですね。無論、ねむ氏もそこらは抑えている。倫理的なリスク・客観的な医学的リスクを十二分加味しなければならなく、その類の論拠を正確に追うためには、この分野の専門家の意見が必要です。昔、某大学の医学部の先生から、反対の意見をお聞きしたことがあります。いうなれば、まだリスクが十分検討されていない。そうした現段階でこうした技術があたかも有能かのように論じられることには危惧観があるという学者のほうが主流なのではないでしょうか。NHKもBMIの話は特番で報道したことがありますが(たしか立花隆先生の特番だったはず)、その倫理性とかリスクの加味に欠けていて、むしろねむ氏のこの本のほうが入門のお話としては適切だったと思います(あたし自身NHKは嫌いではないですが、けっこう無理やりジャーナリズムの先行って番組作っちゃうとこがあるので)。


単なるアイデア書でもなければ、単なるアイドル書でもない。むしろ客観的な立場によって基礎的な統計を元に判断力を示している点では本書の素晴らしい点が評価できると思いました。下手な脚色もあまりなく、下駄をはかせて便乗する業者たちとは別種の書籍に仕上がってる。

( ゚Д゚)<マジで読む価値のある一冊。