書評「eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか」すいのこ著 | ゲヲログ2.0

書評「eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか」すいのこ著

本書は普通にいい出来です。内容は単純.というわけであたしがそれをまとめます。

本書の内容

第一章では、ゲームが出来るのに勉強もできる、というPの”ありえた形”をありのまま事実に即して冷徹に書いている。事実として高学歴ゲーマを多く紹介し、考える力と研究力との差異はあまりない、ゲームにおける応用性もまた重要だ、といういわば広範なゲーミフィケーション的なスタイルをかたどった筆致です。

第二章では、さらに掘り深く個々のゲーマーのサクセスストーリーを追っている。

肝なのは第三章でしょう。この章では、ゲーム=害悪という論拠に中立性に配慮したうえで、綿密にその根拠・特に科学的根拠を求め、第一章よりももっと冷静な筆致です。目が悪くなるとかそういう対策も書かれてて、『実利』という観点から細やかにしっかと書くので、説得力があります。

第四章は第一章後半部の拡張ですね。実際ゲームがどのように社会に役立つか?という点を書いています。特に学校論と結び付けて好意的に書いている。これが印象に残りました。

本書のどこが素晴らしいか?

この問には簡単に答えることができます。『中立性』に十二分配慮していて、どっちかといえば、ゲームを好意的にとらえる内容ではあるものの、科学的根拠も含め、ゲームが悪なのか?ゲームが善なのか?それとも、どこに悪があってどこに善があるのか?という細やかな点をクッキリとさせているところが素晴らしい。

例えば、まず冒頭に近い部分では自分の体験談で、特定の分野の研究能力と結び付けて、あくまでそれは実体験であるということを念頭に経験談を置いている。ここで重要なのが、「自分の実体験に過ぎないが」と前置きがある点。つまりゲームは良い面があります!というだけで終わっておらず、体験はきちっと経験論の上で論じている。偏ってはいないんです。

そして客観性という立場から言えば、第三章の筆致もいい点ついてます。例えば、「ゲーム脳」のどこが問題で、どこが立証されていないか?という点を書いている点。あるいは、目や依存性に悪い点はとんとん認めたうえで、どう改善すればいいのか?問題点があるとして、誤解や曲解・或いは過多な意見はどうすれば解決できるのか?という点を忘れておらず実地的に書いている。

確かにプロゲーマゆえ、ゲームの立場にとってゲームをある程度好意的に描くのは事実ですが、それだけでは済まない理由を、スタンスと距離感をとって冷静に書いている点が本書の肝となっている点すね。

本書のどこがダメか?

あるとすれば、ゲームの悪い体験談のハナシが若干足りないかな?というところ。でもまぁ、これはプロゲーマの書いた著書ですし、むしろバランスはとれている方だけど…

あと突っ込みが足りないのは、ここがゲームの良さ・ゲームの悪さという点で、深堀がもっとできたのではないかとも思いますね。例えば、「ゲーム脳」。まぁあたしがこれ言ってしまえば専門家のレベルになっちゃうんだけど、「ゲーム脳」の科学的根拠の点でもっと深く掘り下げてほしかったとは思いますね。疫学的な面も忘れないでほしかった一方、神経科学的な面ももっと深堀出来たのではないか?という意見はあっていいと思う。

例えば、本書でも核磁気共鳴によるMRI(fMRI)については若干触れられているものの、ニューロンやシナプスといったさらに細分化できる点にはあまり触れられておりません。だからもっともっと突っ込んで、新書だから仕方がないとはいえ、さらなる論拠をもっともっと多く盛り込み全体の文章分配量を再構成しなおせば、さらなる説得力があるもんになったと思う。得にゲームに偏見を抱く大人にとって。脳の動態学とかと比べることもできたでしょう。

とはいってもここらは別にぜんぜん悪筆というわけでないです。さらにもいっこ指摘しておく。確かに第四章ではゲームをIT・教育に活かすという根拠で描いていますが、ゲームのもたらすメリットという点で多角的な価値観を盛り込んだら、さらに偏見を跳ね返せたのではないか?とも思いました。

例えば、GPGPUがスパコンに使われていたり、シミュレーションのシステム周りでも突っ込んだ評ができたんではないか?とも感じた。だけれども、これは『教育』というセンテンスがあってこそ、ゲームの悪影響との対比・コントラストになるので、あたしがここまで言ってみた限りをさらに盛り込むと、本書のバランスの点で悪くなってしまう可能性はある。あくまで四章は教育面・学校単位面でだけで考えている点が、逆に素晴らしい点なのかもしれないという、逆説反論もあるでしょう。

結論

繰り返すけど、本書はバランス性に優れていて、体験談と科学的根拠という点で深追いがそれなりできている。ダメ、なところを上げるとすれば若干”書き”が掘り深くないかな?という点だけで、大体は良く出来ています。新書だからそれでいい、十分読むに値する書っす。