素晴らしい出来です。この類の本は『ゲームは可能性を持っている』とか『ゲームというものを職業にしても良いではないか?』という事実の指摘や提案止まりになっていて、ゲームの本質的な部分についてはおざなりになっているだけの単純な書が多いんですが、ネモは本書でそういった悪い常識を覆してくれました。それは本書が”ゲームを職業にするならばどういった問題があるのか?” ”それを解決するソリューションとは何か?”といったことを自分の体験談と合わせてしっかり説明しているからです。まず、問題点を整理、理由を述べ、その解決策を自分なりの体験談を交えて書いている。簡潔な本に仕上がっているものの、プロゲーマを目指すすべての人に読んでもらいたいほどリスクの分散化に力を入れてきた経緯が書かれている。むしろ、SEや仕様書の作成に関わる全ての職業人に読んでもらいたいほど、それほどゲームの持つ汎用性にまで書分の表現先が及んでいる。
英文の本でさえ、ある種ことわざみたいに提示したいモデル”だけ”を作ってそのモデル構築の理由・根源的なわけがどこにあるのか?ということをきっちり書き切っている書ってのは珍しいんです。この本は兼業プロゲーマという自分なりのオリジナルな経験談を元に、その理由の部分をしっかりと書いている。プロゲームシーンを巡ってはこういった問題がある(モデル=理論)ので、具体的に自分はこういった方法で解決してきました(理論の理由・その説明)という記述あって見事に腑に落ちる。
書き出しからして素晴らしいです。というのも、ゲームを職業にする、というのはかなりの困難でありしかも現実性がないという、酷な世間からの指摘をしっかり真正面から列挙して書いている。だからこそ『自分は工夫して兼業プロゲーマになったんだよ』というプロセスおよび理由までしっかり書かれているんですね。単純な論拠ですが、これができないゲーム関連書籍の多いこと多いこと。これでは、”大人”からゲームはダメだ!と指摘されても仕方がないけど、ネモの場合は親の介護とか世間体からの意見とか現実的な問題を描くプロセスをしっかりと説明しているから既存の書とは違う側面をしょっぱなから提示できている。はじめはSEやってて、そこからゲーム関連の会社に転職して、ゲームやりながら勤めた。その上で、これでいいんじゃね?って見切りがついて、プロゲームのマネジメントの仕事も自然と来るようになってきた。これはまさにプロセスを経てキャリアチェンジしていく様ですよね。例えば、本書はゲーマがプロとして長年活躍することは難しいだろうという難点も挙げていて、だからこそ自分なりのアプローチが有効なのだ、という説明に徹しているので不納得なところが起きない。いわば本書の本質は自分というブランド・IPの作り方なのです。
例えば、冒頭から本書の肝ともいえるプロゲーマ産業構造の問題にふれていて『単にプロゲーマがブランドTシャツ着て大会に出るだけでは意味がない』『産業として広く受け入れるには物語性が必要だ』ということが書かれている。またセカンドキャリアの問題もしっかり書かれていて、プロゲーマ引退後、どうするか?というまさに今起きているサッカーJリーグの問題と同じ側面をe-Sports業界も持っているということが書かれています。実はこれは韓国で既に起こっていることです。韓国では「Starcraft」のプロゲーマらがリーグ終わったと同時に行き場なくしましたよね。ネモは真正面からこのこと(本書の内容でこの韓国のSC問題のことを具体的に指摘したわけではありませんが)を先駆的に指摘し、さらにどうすればそうした問題を解決できるのか?ということ=つまりキャリアの問題解決策を示しています。このアイデアは再春館製薬(スポンサー)と一緒になって考えてきた旨が書かれていて、元SEだからこそできたソリューションの提供方法論が本書ではぎっちり書かれてる。
ここからは具体的にネモ氏なりの体験談も交えどういった経緯で夢を現実として達成したか?という点になります。『理解のある会社に行った』とネモは言っている。これも腑に落ちる点です。面接のとき『ゲームが趣味だ』としっかり伝えたため『理解のある会社から内定をもらった』と。『保守運営にSE業が変遷していくと仕事が楽になっていった』また、幸運なことに『会社の規模が小さい会社から順調にでかくなっていたので福利厚生がさらに良くなった』とまで記載があります。内容が具体的なんですよね。んで、本書の提案している内容が平坦で地道なポイントを押さえているので、わかりやすい。論理的に書かれていて、プロセスの変遷がすごく平易に書かれている。いわば本書は一言で表すのであれば、SE流仕様書なのです。だから、単なるゲーマの書いた理想論の本ではない。現実的な方法論を頭要領よく書ききっているわけです。
そうした経験談の中で一番印象的なのが『SEで良かった』という点でしょうか。SEというと基本刻苦するものだと言いますが、まず、社会の安定性に汎用的に貢献できるという職業本分の利点があるというのです。つまるところ、ネモ(の上司)曰く『お客さんの問題点を調整して解決するのが仕事』なわけですから、後々”マネジメントの能力に貢献する”ことができたわけですね。今やっていることに寄与する能力を社会人経験があったからこそ得られた、というわけです。いくつかある産業の中からITを選んだのは良かったのだそうです。ネモだからこそ、というプロセスの変遷の上に、パーソナルな運命的幸運さがある。これがネモにとってもでかい要素だったのだろうとあたしは思うわけです。SEやってっとカネの流れもわかるし、いいことが大半だったというのです。SEでこの経験談はかなり意外ですが、ネモは言います。『できることを計画的に論理的に整理して夢を現実的に叶えれば良い』と。そして”ウメハラとは違った側面”から、ネモは言います。”積極的に行動するための「思い込む力」・まい進できる環境構造を自分で作っていくことこそが重要だ”と。
本書の内容はぶっちゃけ再読してもおそらくは何度読んでもほぼほぼこれだけです。ですが、現実的に夢を叶える力のありかたを俯瞰して客観的に書いている。もう一度言いますが、簡潔な本に仕上がっているものの、プロゲーマを目指すすべての人に読んでもらいたい本です(”リスクの分散化”に力を入れてきた経緯が書かれているから)。ましてや、SEや仕様書の作成に関わる全ての職業人に読んでもらいたいほどの独自性があります。それだけ”ゲームの持つ汎用性”にまで書分の表現先が及んでいるのです。本当に刮目して読める書に久々に出会えました。ゲーム系の単著ですが、今年読んだ中で一二を争うほどの名著でした!いろいろと考えさせられました。本書を書いてくれてありがとう、ネモ!
※書影:Amazonより.