【連載:クマでも読めるブックレビュー】「SPY×FAMILY 家族の肖像」~現代版サリンジャー? | ゲヲログ2.0

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「SPY×FAMILY 家族の肖像」~現代版サリンジャー?



SPY×FAMILY 家族の肖像

本書の内容

面白いです。帯にあるようなフォージャー家の秘密…というより、ザ・サーガのような、あるいは、ザ・サードとでもいうべきような、本筋の漫画ストーリーの”外伝”と”補完”を兼ね備えた、稀有な書だと思います。原作がもちろん遠藤先生(押絵もそう)、小説本文の担当は矢島綾先生によるものです。内容としては、ダミアンとアーニャ(エピソード1)・ユーリとアーニャ(エピソード2)、加えてフランキーのハナシ(エピソード3)・締めにフォージャー一家の絵画をめぐるもの(エピソード4)…などというように、フォーカスする点をわざとずらしている印象がある一方、総合的によくまとめています(最後にショートエピソードもついてます)。

最大の特徴

本書の最大の特徴は”余韻”ですね。読後感がしっかりしているので、買って読んでも損した気分にならない。こういった本をかける矢島先生の才能はすごい!それは本書のあとがき枠で原作の遠藤先生がおっしゃっているようにその通りです。遠藤先生のお気に入りはどれも優れた構成力を持つハナシの中で、特に、エピソード2・ユーリとアーニャの心通わせるところが好きだそうです。曰く、『小説化には不安もあったが、見事に出来ている』とのこと。ですが、遠藤先生はそのあたりの不安はいらんものだった、すなわち本書が素晴らしい出来だったということを認めておられです。当の本文担当、矢島先生は遠藤先生が初期作品のころからのファンだったらしく、「TISTA(ティスタ)」もご存じだったそうです。

思い起こしたサリンジャー

俺が思い起こしたのは、余韻とか文章の技術のからみで、やはりサリンジャーですね。サリンジャーの小説にかなり近いものがあると個人的には思うし、おそらく俺のこの意見に同意してくれる読者もそれなりいるのでないでしょうか?そもそもサリンジャーは一定の家族のハナシを外伝かつ補完的に執筆することが多く、代表作「ライ麦畑でつかまえて」に相対するように、小編ではその周りの執筆にかなり力を入れていました。本書もその小話、それにかなり近いと思います。まず共通項として家族・家系を描く。そしてモダンな印象的に物語を描く。かなり似通ってるところが多いと思いました(無論パクリとかではない)。

結論

とにもかくにもフォージャー家に強く興味を持っているファン・原作の世界観に感動したファンならばフルプライスで買って損はしません。久々に小説を読みましたが、すごくいい出来です。それぐらい遠藤先生の世界観の構築法が素晴らしいものがあるんだろうね。ひしひしとコンテンツとして素晴らしい完成度を誇る「SPY×FAMILY」の魅力を今再び考えさせられた珠玉の一冊といえるでしょう。