【序論】
漫画「ハイスコアガール」の勘所は、少なくとも部分的にはゲームをめぐって大人たちがどのようにゲーマである若者に接するかという点にある。そこが押切蓮介の有能なところなのだが、これを客観的に指標化出来たら素晴らしい企画になるのでは?と思ったことがこの記事のハシリである。
【解析手法】
主にユーザーローカルのウェブサイト解析ツールから定量的に分析できればと思い行った。ハイスコアガール第5巻クレジット29よりすべて引用させていただき、データはテキスト、特に矢口春雄の母・なみえと大野家の鬼教師・業田先生との論争を題に取ってみた。ぶっちゃけ、『パンケーキ作ってみた』に続く、事実上の馬鹿企画である。
【解析内容】
まず、クレジット29における、矢口なみえと業田先生との間(部分的には春雄との会話も含まっている)でかわされた言葉の単語レベルでの解析から入る。なみえは相手の固有名詞を多く述べ、また、なみえにとっては物語の肝となる自らの考える”教育方針”について意見していることが端的に見て取れる。対して、業田先生は晶に対する懸念を主に述べており、春雄についても直接意見を述べていることもあってか、『春雄』と彼のことを示す固有名詞も多く、業田先生側から出現している。また、形容詞に着目してみると、業田先生のほうが若干なみえに、勝っている分析量を感情的に呈している。が、話の主導権はなみえにある…とこの単語頻度表は示しているようにも思える(解析総分量はなみえのほうが業田先生より若干少ないのに、なみえのほうが駆使している語彙は豊富である)。
次に両者の話した単語と共有した単語部を見てほしい。注目すべき点は、なみえのほうが積極的な自由な教育方針に沿った単語を多く述べているところ、および、業田先生のほうが晶と春雄という固有名詞に言及する癖があるところだ。たしかに春雄と論を交わした点を差し引いてもこの様子は感覚的に理解できる。なみえは自分のことを教育者として、子供に自由を与える方針であることを業田先生にこのクレジット29で述べており、業田先生は子供たちの進路を主と考え、限定的にであっても管理された教育方針をこの時点では抱いているのは漫画の意図からして明白である。その裏付けとなっているといえるのではないか?
ネガポジのセンチメント分析もまた同じ様相を呈している。上記の論を裏付ける別データだ。
次は、時系列センチメント分析である。
たしかに、なみえは最初落ち着いていた。お菓子の話から始まり、春雄と談笑し、業田先生がやってきたことを歓迎していた(ゆえに時系列センチメント分析ではポジティブが最初のほうに集中している)。その後、なみえは洗濯物を取りに行き、その間、春雄と業田先生の話を聞き耳してもいた。そこから、なみえの反撃が始まり、指導者・教育者としてあるべき持論を述べた後に客観性の論拠も持ってきた。曰く「教育方針が家庭によって変わることもよく存じております」(のようなこと)を述べていた。ネガポジの時系列としては、なみえのほうが落ち着いているように思える。ずばり、『起承転結』である。落ち着いた様子で始まり、持論を述べ、客観性を加え、さらに、業田先生にも配慮を加え、このクレジットは終わる。次、業田先生のそれ(時系列センチメント分析)をみてほしい。
この図からも明らかのように、なみえに起承転結の論拠があるのに対して、業田先生のゆらぎは明白である。明らかに業田先生は”動揺しているのだ”。定量的にみてもネガポジの分量が割拠していて、話としてまとまりに欠けている。ネガティブさを前面に出してスタートを切り、春雄に対して晶を保護してくれた感謝の念を述べながらも、業田流の持論で一気に押し切ろうとしているのがよくわかる。だが、その試みは失敗したのではないだろうか?最後に『思想の違い』と決定的な敗論を自認するかのように述べて、大野家へ帰っていく。社会的に種々のスペックが高いのは明らかに業田先生のほうであり、なみえのほうではない。だが、著者である押切はそこを逆手にとって、いわば『市井の切れ者』として、矢口なみえ、という人物をこの漫画の中で描いたことが読み取れるのではないか?
【補足及び結論】
最後に、クレンジングしたバイリニアデータからのネットワーク図を提示し、さらに、データから読み取った一番簡単な人物像を裏付けるひとつのテーブルデータも提示する。そして、結論を述べる。
やはりネットワーク図からなにか知見を得るのは非常に高度で難しいことに気づかされる。部分的には語のネットワークのつながりがなんとなく見える程度で本質的な知識獲得には至っていない結果だ。だが、このネットワークから簡潔にわかること、一番わかりやすいことは、”クレジット29における登場人物の話の内容が大概多岐にわたり散乱している”という事柄ではないだろうか?事の成り行きが右下を主として左下まで広がっているのに対して、事の本質は図中央上付近から左付近へと拡散しているのがわかるだろう。
では、続けて、結論・論旨を述べる。
TERM | POS1 | POS2 | FREQ |
うつつ | 名詞 | 一般 | 1 |
おいしい | 形容詞 | 自立 | 1 |
お菓子 | 名詞 | 一般 | 1 |
お母様 | 名詞 | 一般 | 1 |
ハルオ | 名詞 | 一般 | 1 |
ビックラ | 名詞 | 一般 | 1 |
メッチャ | 名詞 | 一般 | 1 |
挨拶 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
下心 | 名詞 | 一般 | 1 |
家庭 | 名詞 | 一般 | 1 |
皆無 | 名詞 | 形容動詞語幹 | 1 |
学生 | 名詞 | 一般 | 1 |
干渉 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
感謝 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
危うい | 形容詞 | 自立 | 1 |
気の毒 | 名詞 | 形容動詞語幹 | 1 |
気苦労 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
気立て | 名詞 | 一般 | 1 |
季節 | 名詞 | 一般 | 1 |
胸 | 名詞 | 一般 | 1 |
健気 | 名詞 | 形容動詞語幹 | 1 |
交友 | 名詞 | 一般 | 1 |
行為 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
降り | 名詞 | 一般 | 1 |
高校生 | 名詞 | 一般 | 1 |
最中 | 名詞 | 副詞可能 | 1 |
昨今 | 名詞 | 副詞可能 | 1 |
刺激 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
思想 | 名詞 | 一般 | 1 |
指摘 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
指導 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
至り | 名詞 | 一般 | 1 |
事件 | 名詞 | 一般 | 1 |
自分 | 名詞 | 一般 | 1 |
失礼 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
若い | 形容詞 | 自立 | 1 |
若気 | 名詞 | 一般 | 1 |
手がかり | 名詞 | 一般 | 1 |
女性 | 名詞 | 一般 | 1 |
将来 | 名詞 | 副詞可能 | 1 |
場合 | 名詞 | 副詞可能 | 1 |
状況 | 名詞 | 一般 | 1 |
信念 | 名詞 | 一般 | 1 |
心配 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
申し訳 | 名詞 | ナイ形容詞語幹 | 1 |
人間 | 名詞 | 一般 | 1 |
世 | 名詞 | 一般 | 1 |
生徒 | 名詞 | 一般 | 1 |
精神 | 名詞 | 一般 | 1 |
先日 | 名詞 | 副詞可能 | 1 |
洗濯 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
全う | 名詞 | サ変接続 | 1 |
素敵 | 名詞 | 形容動詞語幹 | 1 |
早い | 形容詞 | 自立 | 1 |
足 | 名詞 | 一般 | 1 |
存在 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
大人 | 名詞 | 一般 | 1 |
大変 | 名詞 | 形容動詞語幹 | 1 |
男性 | 名詞 | 一般 | 1 |
知人 | 名詞 | 一般 | 1 |
地獄耳 | 名詞 | 一般 | 1 |
長時間 | 名詞 | 副詞可能 | 1 |
痛ましい | 形容詞 | 自立 | 1 |
努力 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
忍び | 名詞 | 一般 | 1 |
反発 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
必死 | 名詞 | 形容動詞語幹 | 1 |
頻発 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
物干し | 名詞 | 一般 | 1 |
物騒 | 名詞 | 形容動詞語幹 | 1 |
変わり目 | 名詞 | 一般 | 1 |
勉強 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
保護 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
方針 | 名詞 | 一般 | 1 |
本分 | 名詞 | 一般 | 1 |
迷惑 | 名詞 | 形容動詞語幹 | 1 |
友人 | 名詞 | 一般 | 1 |
余計 | 名詞 | 形容動詞語幹 | 1 |
理解 | 名詞 | サ変接続 | 1 |
立派 | 名詞 | 形容動詞語幹 | 1 |
良い | 形容詞 | 自立 | 1 |
お礼 | 名詞 | サ変接続 | 2 |
教育 | 名詞 | サ変接続 | 2 |
後悔 | 名詞 | サ変接続 | 2 |
今日 | 名詞 | 副詞可能 | 2 |
心 | 名詞 | 一般 | 2 |
前 | 名詞 | 副詞可能 | 2 |
大野 | 名詞 | 固有名詞 | 2 |
底 | 名詞 | 一般 | 2 |
厄介 | 名詞 | 形容動詞語幹 | 2 |
関係 | 名詞 | サ変接続 | 3 |
息子 | 名詞 | 一般 | 3 |
アナタ | 名詞 | 一般 | 4 |
子供 | 名詞 | 一般 | 4 |
ゴウダ | 名詞 | 固有名詞 | 5 |
先生 | 名詞 | 一般 | 5 |
私 | 名詞 | 代名詞 | 6 |
春雄 | 名詞 | 固有名詞 | 6 |
晶 | 名詞 | 固有名詞 | 11 |
この最後に提示した語のテーブルはクレジット29における両者の戦いの火花を単語レベル、特に名詞と形容詞だけを抽出し、解析してみた結果である(R→Excel:明らかに余計な文章はタグから取り除いたほか、人物名『ゴウダ』として業田先生を解析したのは、誤検知が目立ったからである)。この事例を見ればわかるとおり、もし仮に動詞を考慮したとしても、語彙頻度(FREQ)が高いのは、やはり人物を指定する固有名詞だ。人物に話の重きが置かれていることが自然とわかる。特に晶サイドの話が多いので、『晶』という人物の固有名詞が多く引じられており、次に関係者の『春雄』が続いている。そして『ゴウダ』(業田先生)が続き、以外にも『なみえ』はまったく出てこない。
ストーリーを追ってみればわかるが、総じて、なみえは傍観者の立場をどのキャラクターよりも譲っておらず、親として子供たちを”見守る”教育方針であることがこれに影響を与えているように思える。そのほか感情の機敏を示すようなセンテンスが多く頻度1あたりで散乱しており、ゲームそのものの存在以上に、人物が抱く複雑な心境をこの漫画がテーマとして示していることが見て取れる。第5巻はクライマックスとは程遠く、”彼ら”はゲームをめぐって闘うのではなく、ゲームという抽象ブツを通じて関係性をなんとか紐解いていくというプロセス、その重要なシーンが読者に呈されているのは明らかなのである。
ぶっちゃけて言えば、話はここからがようやっとスタートライン(第二幕の開幕)なのだ。
※ユーザーローカル テキストマイニングツール( https://textmining.userlocal.jp/ )による分析を多く含みます。解析データは押切蓮介著「ハイスコアガール」第5巻掲載29-creditより引用させていただきました。