【連載:クマでも読めるブックレビュー】「日本人が知っておくべき自衛隊と国防のこと」高橋杉雄~江畑謙介以来の天才による本 | ゲヲログ2.0

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「日本人が知っておくべき自衛隊と国防のこと」高橋杉雄~江畑謙介以来の天才による本



「日本人が知っておくべき自衛隊と国防のこと」高橋杉雄 ※書影:Amazonより

この本そうとう中立的なんですよねえ。防衛研究所の方々は、どーしても防衛省よりの意見が強くなりがちだと思われがちですが(また、あたしもそう思っていましたが…)高橋先生はそういう論者ではないんですよね。例えば、三法の問題もありきたりの否定でなければ、ぶっちゃけ全面的な賛成でもないんですよ。どっちかというと賛成っていう判断だろうけど、そのためには『こういう論理があってこういう情勢あるんですよ』『だから必要不必要を踏まえて考え抜く必要があるんですよ』という風な論調ですね。全面的に、小学校卒業してれば、誰でも理解できるデータを元に安全保障論を、読者と一緒になって考えていこうという形の本ですね。どこぞの元自衛官幹部が、反撃能力を保有せよ!みたいなカンファレンスに参加するってだけのスタンスとは一線を画している書籍です。中身があります。

米国が世界の警察であるがゆえ、戦力を分散しないといけないのに対して、中国はまずは東アジアにフォーカスできることに始まり、北が核を保有するための論理…核シェアリングの問題…MADの基礎知識…各種戦紛争のリスク…自衛隊の実力…どれもがありきたりの国防安全保障論に限っていることではなく、これはもはや政治の世界にしっかりとした、自立立脚している論理が打ち立てられている。高橋先生はたしか政経の修士課程でアメリカでも修士号をお持ちでして、Doctorは学位としてもってないんでしたっけ?Doctor持ってないのに、なんでここまで深く見識を客観的に論じれるんですかねぇ…阿呆な博士よりずっと頭いいですね。

著者の広範な軍事的な知識がしっかりと書かれている後半部・特に自衛隊の装備武装について論じた部分は眉唾物で、とてもあたしの知識では追いつけませんが、それ以上にすごいのが前中盤部の客観的な論述です。例えば、高橋先生が言うには先生自身北の外交官と話す機会があったそうです。非常にできるひとが出世している、つまり北は頭が良い、しっかりと熱心に核技術についてなど、勉強している、外交軍事のスペシャリストが多いという意見なぞ、聞いたこともありませんでした。北はあくまで外交カードとしてだけ核戦力を持っている…多くの日本人のそうした外交認識の過ちを正してくれる名著ですね。また、唯一自衛隊の装備のなかで非常に関心したのが生物化学兵器の対処レベルでは世界一だという点です。曰くところによるとこうした論理背景がある。以下が、日本の自衛隊のこの生物化学兵器対処の実績ですね。

・N(Nuclear Weapon)☞東海村臨界事故・福島原発事故の対処

・B(Biological Weapon)☞新型コロナ感染症(ダイヤモンドプリンセス号)の対処

・C(Chemical Weapon)☞オウム真理教サリン事件の対処

なんでも米軍が福島の原発事故のときに特別編性のNBC対策班を日本に派遣したとき、日本の自衛隊の装備のほうが優れていた・経験値も米軍よりも高かった、という事実には驚かされましたよ。たしかに実戦経験では米軍やイスラエル軍のほうがずっと高いでしょうね。でも日本はNBC対策では世界一の実績を持つ自衛隊を保持している…この事実には驚きました。サリン事件の際もたしかイスラエルの医官が『こんな大規模な化学兵器事件が起きたのに死者数がこれほど少ないのは奇跡だ』と言ったんじゃあなかったっけ?思うに、訓練だけではなくて、実地経験があるってのは軍隊や自衛組織にとってすごく重要なことなんですよね。

客観的な国防のことを論じれている本ですね。江畑謙介氏(小泉悠先生の書的師匠)が亡くなられた今、右左の立場に関わらず、また政治的・経済的な立場に関わらず、どんな日本人にとっても必見の重要なオピニオンになっていると思いました。文句なし、満点。繰り返すけど、後半のすごい専門的な軍事的な知識はさすがに追いつけませんでしたが、それを無視してでも読むべき本です。