【Steamゲームレビュー】「マクナ=グラムラとフェアリー・ベル」~幸福の在り方を悟った子供たちの物語 | ゲヲログ2.0

【Steamゲームレビュー】「マクナ=グラムラとフェアリー・ベル」~幸福の在り方を悟った子供たちの物語



短編だが、見どころが多く珠玉の一篇に仕上がっている。一言で言えば【幸せとは何か?】ということをモダンに問うたテキストADVゲーム。もともとALICE IN DISSONANCEはADVゲーム「fault」シリーズで有名なゲーム会社だが、そのシリーズ内で登場する作家アリスン・リーヴェの小説をテーマにとっている。いわば本作は、ゲーム内のゲーム、という立ち位置なわけだ。それが今回紹介する「マクナ=グラムラとフェアリー・ベル」である。

立ち絵に拘らない進行システム

本ADVゲームはオーソドックスな立ち絵式のADVゲームではない。全編がイラストで描かれていて、そのイラストに沿って物語が展開される。よってゲーム…というよりかは総合的に見ると『PCで読める物語』になっていて、まるで絵本を紐解いているような印象が余韻に残る作品になっている。また、カメラワークに優れていて、その絵本がゲーム特有のエフェクトによって表現されもするので、ちょうど絵本の良いところとゲームの良いところの折半である、という風に表現した方が正しいかもしれない。

幸せを巡るテーマ性

作品のテーマの観点から見ても優れているタイトル。幸せとは何か?もっと言うと、幸せというものを空想に求めていいのか?というテーマを子供たちの成長の過程と合わせて見事に表現しきっている。さらに突っ込んで言うと、幸せの先にある好きなものを追い求めることとは何か?という副題もついているといって良いだろう。そうしたテーマ性を追う過程において、自分の感情と反対型にあるもの、という相対する概念を描いている。つまり、幸福と不幸に代表されるように、ひとつの感情を抱くということはその反対の概念と常々結びついていて、ポジネガどっちともを知っているからこそ、ポジティブな感情を抱ける、という哲学的なものごとを物語形式で具体的に描くことに本作は徹している。その表現方法は単純だが、単純だからこそ、完成度の高いADVになっているといって良い。

乗り越えた先にあるものをダイレクトに描いた

批判があるとすれば、成長の過程を描いていない、というものはあるかもしれない。たしかに幼少期の成長の過程は描き切っているが、その後、どういった苦労をしたのか?絵師としてセビアの大成を主人公の少女マクナはどうサポートしたかということは、本作ではまったく描かれていない。もちろんそれは、その部分を省いたが故コンパクトにまとまっていて、評価が高まっていることもわかる。だが、辛苦の過程が省かれているからこそ、物語があまりに小さすぎる…という穴はある。本作はそういった意味で印象的な小さい一篇に過ぎない。先に書いたように、そうであるからこそ、500円程度で買える、寓話的物語性のある短編になっているともいえる。

再考:幸せとは何だろうか

とはいえ、マクナとセビアは幸せということをその人生の早い段階、つまり幼少期に悟っている意味ではもう既に大人なのだという見方もできる。ありていの幸せとは幸せではない。幸せというものは多数の不幸の上に成り立っていて、それを乗り越えたからこそ勝ち取れる、小さきものである…という一貫したものが表現されているといえよう。幸せだらけの世の中で感じれるものは実は幸せではない。だからこそ、マクナとセビアは戦争を乗り越え、自分の好きなものと大切な人を勝ち取れた。彼らが幸せである、ということはおそらくだが、幸せの在り方を人生の早い段階で気付けたことではないか。


ADVゲームとして優れた演出に拘りぬき、その上、空想の世界の話を見事にリアルの感覚に戻したプロットに感心した。技術力を魅せつけられた、心底プレイして良かったと思える短編ADVだ。安価に買えることも功を奏していてまとまった小話に感動したい…そう思っている”休肝日”を欲するSteamerならば本作は買ってプレイして損はないだろう。

※なお、サウンドトラックもYouTube上で全て公開されている