「テンセント」は世界的脅威か?【ゲームの背後に画策有】 | ゲヲログ2.0

「テンセント」は世界的脅威か?【ゲームの背後に画策有】



記事の要約:「テンセント」が悪いとは断定的には言えない。同じことや似たようなことをアメリカ様も日本も十分やってる(し、やってきた)。

あたしたちSteamerに、評判受け悪い企業の代表格はなにか?と問うたとしよう。まず真っ先に挙げられるのが間違いなく中国の深圳の超巨大IT企業である「テンセント」だろう。Epic GamesやRiot Gamesといった、人気タイトルを抱えるメジャー企業の株式をガンガン取得、それらのバックにつく『アクドイ会社』という見方はネット上では多いようだ。たしかにテンセントのゲーム事業の立ち位置をみていると、かなり怪しい節があるのは常々感じる通りだ。

例えば、Epic先行時限独占発売であった「Hades」にはクラウドセーブ機能がSteam版と違いないし、他社製ゲームプラットフォームにポートされるかどうかすら不明な、地味ながら根強いファンを抱えるIP「SnowRunner」もカネの力でしっかり囲い込んだ…といった形だ。しかも「SnowRunner」の場合、発売直前まで日本語実装の説明文字があったのにもかかわらず、発売直後にその記載が消えているという喧嘩ネタのような話まである始末。

このようにエリート華僑の会社による囲い込み戦略は、タイトルごとの情報の不透明さや提供方法の急進転換といった、ユーザ軽視のものだと先進諸国のゲーマからはみられることが多く、Epic Gamesプラットフォーム自体に対する批判も大きい。さらに、Epic Gamesプラットフォームは機能の面ではSteamはおろか、「エレクトロニックアーツ」製ゲーミングプラットフォームOriginにも遠く及ばない。コミュニティー機能は事実上ろくに実装されず、その整備に関してもスピード感を欠いている、という声もよく聞く。だが「テンセント」が先進諸国の企業と比較してホンマにユーザ軽視の『アクドイ企業であるか?』というと本質的にはそうは言えないとあたしは思う。

たしかに「テンセント」はCEO馬化騰(共同創業者で父親の馬陳術は中国共産党の元官僚)のトップダウンの影響力が半端なく強く、どちらかといえば、共産党寄りの企業と言えないこともないフィーリングはある。Epicのゲーミングプラットフォームを利用している身としてはこの感覚は”ある”というのが正直なところだ。だが、馬家の父が共産党の元官僚であることを伝えているソース元をたどると実際のところ、それは中国系の中堅メディア企業であるYIBADA(http://www.yibada.com/)によって報道されているものらしい。中国人向けの中国記事がこのようにネットであたしたちが閲覧できる立場にいる、ということは、この記事が「当局」の”禁忌”に触れているとは言えないということを示唆しているのではないか?とあたしは勘繰る。

実は、共産主義国である中国では独禁法(独占禁止法)という立派な”資本主義”のルール整備は一通りなされている。これは神戸大学の川島富二雄教授も伝えるように、彼らなりにルールを整備したうえで、その適用事例を(少なくともある程度は)厳密に資本社会的に判断しているのはあたしたちにでもわかることだ。その司法判断の結論が妥当かどうかは除いたとしても、独禁法の適用事例や民事訴訟の事例は確かにあるといえる(川島教授は「中国の企業法治主義」は共産党系の政治的影響力があるかどうかも含め、次のように結論付けている)。

今後の展望の第1として、アリババ及びテンセントは強い政治的影響力が指摘されるが、ゲーム規制等では頻繁に規制対象となっている他、電子商取引法で特別規制の対象ともなった。従来、独禁法規制の対象から免れてきたのは政治的聖域故、裁判所や規制当局が「手心」を加えてきたからなのか、 「偶然の結果」なのかは明らかではない。一方、アリババ及びテンセントは多数の独禁法専門家をインハウスの弁護士又は研究者として抱える他、独禁法関係の会議のスポンサーとして頻繁に名前を連ねている。これらの行動は、むしろ独禁法規制の刃が自らに向くことをおそれており、「不可触聖域」と自己認識していない故の行動にも見える。

中国における電子商取引分野に関する法規制―独占禁止法、反不正当競争法及び電子商取引法を中心に―より

現に今年(2020年)に入ってからも中国版独禁法の関係上当局サイドが、テンセント系の音楽事業に捜査に入っている(「テンセント」への政治的な配慮のからみなのかどうかはわからないが、たしかに捜査は実際のところ停止されてはいる)。この経緯はブルームバーグに詳しい。事実、状況は「テンセント」の側に傾いてはいるが、それだけではテンセントを『アクドイ企業』と名付けることはできないとあたしは思う。そりゃなぜか?簡単だ。アクドイようなことはアメリカ様もやってきたし、当の日本国でも同じだから。我々の非は認めないで、”彼ら”の非だけを認めるのは明らかに正々堂々とした公正ではないはずだ。

現にMSはアメリカ独禁法のからみで制裁措置にされなかった。それはMSほどの大企業であれば、独禁法を適用するのは『明らかに国益に損じること』だったからだと今でも有名に言い伝えられている(MSはIEをWindowsOSに標準搭載したことで”独禁法事件”に発展したことがあるのはIT関係者ならば誰もが知っていることだ)。このように、世界一金持ちで世界一資本主義が進んでいるアメリカ様でも”政治的配慮”は十分あるのが現状だ。GAFAとほぼ時同じくして出た、BATについても同じことがいえるだろう。アメリカの独禁法適用除外を見逃して、中国の独禁法適用除外を見逃さないのは公平でない。決して、中国共産党に肩入れするわけではないが、ことの大小はあれども、どちらも国益にかなった”政治的判断”を迫られた、自然な結果・結論だ。

例えば、ファーウェイを批判して、カスペルスキー社を批判できない論理はおかしい。ファーウェイもカスペルスキーもどちらも国軍関係者が実質的に経営している企業だ(それが倫理的に良いか悪いかはこれだけでは判断できない―証明するのは『たぶん一生かかっても無理』だろう)。そして重要なことだが…これは中国やロシアにだけいえることではなく、アメリカでも日本でも同じ状況なことだ。言わずと知れたアジア最大級のコングロマリットで、国内の学生による就職したいランク上位に例年のように位置する「伊藤忠商事」も旧陸軍関係者が関係している経緯があるのは、意外と日本国内でも知られてはいない(参考リンク:瀬島龍三 – Wikipedia)。中共(や人民解放軍がらみ)に対しては思う存分批判しておきながら、我々同盟国側の軍産複合体などの”似たような”構図を批判しないのは身勝手というものだ。

伊藤忠商事はパトリオットミサイルの卸売りもやる、立派な軍産複合体なのだ。伊藤忠のグループ企業の取引先には、米国の「ロッキードマーチン」「レイセオン」などそうそうたる世界的軍産複合体が存在する(これは彼らのHPをみれば一目瞭然である)。日本近代化の萌芽を画策・成功した、「海援隊」は、日本の近代の歴史上ではまるで夢物語のように語られることが多いが、裏でやっていたのは武器の輸出入にほかならない。後に三菱財閥の流れを汲むこととなる、この軍産複合体を経営していた坂本龍馬が暗殺されたのは、まったくもって”偶然ではない”。むしろ”必然”である。

このように、ステレオタイプの批判は「テンセント」にだけ、あるいは中国系の企業にだけ通用することでないのは明らかだ。以前の記事で、Twitchのオフィシャルスポンサーに米陸軍がついていることをあたしは指摘した。我々の暮らす健全な、先進国のゲーム産業社会でも一定の不健全さは常に兼ね備えている。物事は常に無矛盾で進むものではけっしてない…娯楽向けのゲーム事業といえども、あたしはそう結論する。

『そうはいっても中国は世界にとって悪いことを随分とやっているじゃないか?アメリカや日本は平和主義・民主政を標榜し、覇権主義・寡頭政を標榜しないから別論だろう』このように、反論する方もいるだろう。話がそう簡単にまとまるのであれば世界は常に平和であるはずだ。だが、そうでは『ない』からこそ…常々報道されている以上のことを我々は考えなければならないのも、また事実なのだ。