【連載:クマでも読めるブックレビュー】「ネパールのビール」吉田直哉~それは懺悔と涙の物語 | ゲヲログ2.0

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「ネパールのビール」吉田直哉~それは懺悔と涙の物語



本書「アンソロジー ビール」の中で珠玉の完成度を誇るのが「ネパールのビール」だ。吉田直哉というNHKのキャリアディレクターが書いたもので、こいつはたしかに相当感動ものだった。内容はどのようなものだっただろうか?ちょっと要約してみよう。

吉田をはじめとして彼らはディレクターとして取材活動にネパールを訪れていた。だが山岳歩行ルートのことを考えていくとビールは持っていけない(重いから)。だから少年に頼んでビールを買ってきてもらうことにした。彼にビールを買ってきてもらうことを頼むと、きちんとビールを買って持ってきてくれた。その後、また買ってくるよといってくれたので、かなりの量を頼んで買ってきてもらうことにした。だが、二度目は待てども待てどもはだしの少年は帰ってこない…。

学校の先生やその周りの人に相談すると、「ビールダースの大金を少年に与えたのだからそれを持って逃げたのだ」という。 吉田はこう思った。「不慮の事故かもしれない…あるいは少年にだましの悪行を働かせてしまったかもしれない…」と。そう思ってずっと待って二日後、彼(少年)は戻ってきた。なんと隣の山を越えて、ビールの不足分(物量として売ってなかった分)を遠くに行って買ってきていたという。途中で割ってしまった分もあって、少年は詫びたという。なんということだろうか。

吉田は自分の安直な行動に泣いた。そして自分の反省として彼に危険の片棒をかつがせたかもしれないこと、そしてそれ以前に彼の誠実さを目の当たりにして彼のことを信じ切れなかった自分を恥じて泣いたという。

これが「ネパール(たぶんヒマラヤ)のビール」の大体の話だったと思う。これは確かにすごいことで、吉田の実直で冷静な判断が最後の文章につまっていると思う。吉田は自分の反省としてこの場面を書くけど、はだしの少年に危険をさらしたことよりも彼のことを信用できなかった自分に「反省し」て「泣いた」というのだ。これはすごい啓蒙書だなと思った…。

いつでも、道徳には二面性がある。このエセーの場合、自分のふがいなさ・反省点とともに、少年の誠実さを信じきれなかったという「人物の二面性」が書いてあるわけだ。吉田はその二面性の中で人(ひと)を信じようとして、後悔し、その点を信じきれなかった自分を恥じている。これについては深く掘り下げるとかなり難解な問題につながる。そのため、解説動画が大学教授から出ているからしてご興味があれば参照してほしい…