記事の要約:ゲームデヴェロッパはいったん成功すると、パブリッシングに徹したほうが経営上効率が良い。知名度をバックボーンにしたうえで、ゲームそのものは小さめの子会社に作らせた方がリスク管理上の問題を少なく出来るからだ。本来、これは『楽しいゲームを作る』という目的を持ったゲーム会社のやるべきことではないが、現代の資本の関係上そうせざるを得ない。効率よく利益サイクルを回し続けるにはそうする以外にないからだ。
なぜゲームデヴェロッパはゲームパブリッシャに変容するのか?
最近、ParadoxやTripwireといった立派なゲーム会社がゲームのデヴェロッピングからパブリッシングに事業のスタンスを変えている現象を我々も良く見ている。これはなぜなんだろうか?とあたし自身反芻してみたところ、最近特段ネタ切れに困っているゲヲログで、過去この件に関して言及があった。その記事はテンセントに関する記事で、ゲームに限った話ではないが、この系としてゲームに関係する話、ではある。ちょっとそっから引じてみよう。
おそらくテンセントとしては、子会社を多く持つことで『社内民営化』を推し進めるということが大局的な戦略にあるはずだ。これは、昨今の製薬企業と似ていて事業のシード探索は子会社を多く持つことでそれだけで十分達成可能だという戦略構想にあるものと思われる。その事業の最適化は本社の高給取りが多くやるべきことではない。本社機能は限定的なエリートにまかせればいいわけであり、挑戦心の大きい・やりがいを感じるハードワーカーに子会社の経営は任せて上から命令する…という形をとればいいのだ。テンセントがやっていることは”こういったこと”だとあたしは勘ぐっている。
これをもうちょい詳しく話してみる。その入り口に考えられることとして、ゲームデヴェロッパはインフレーションの産業体制を持つものだ、ということをまず初めに確認したい。ソフトウェア産業は利幅がでかいからその傾向はより強まる。,,,とはいってもこれだけではよくわからんだろうから具体的な例を挙げよう。恐らく、こういうことだと思うんですよ…
ゲーム会社が設立される理由
ゲーム会社がゲームを作って売ったとする。はじめはどのゲーム会社も基本ベンチャーで小さい体制から始まるだろう。ゲームは作りたいから作る。売りたいから売るわけである。アレクサンダー・セロピアンがその亜種で経営する天才であったよう、ParadoxやTripwireも元来そうだった。ゲームを開発して利益を上げる。すると、事業規模が大きくなる。事業規模が大きくなれば、社員に対し還元すべき給料も大きくなっていく。サイクルが回り始めると全体的にインフレが起きる。するとどうなるか?
インフレの哲学
会社はゲームの開発に際して以前より大きな規模でより良く売れるAAAタイトルを作ろうとする。事業拡大にどーしても食指が伸びるのだ。会社は資本の論に伴ってもっともっと肥大化していく。この世において、「夏への扉」のダニエル・ブーン・デイヴィスのように考える、敏腕な経営者はほとんどいない。経営のスリム化は大企業が陥ったジレンマを解決する方法にしかなりえない。その意でコストカットと人員削減は宿命であるわけ。じゃ、それはなぜか?事業規模を縮小しキャッシュフローを良くするのが、経営に行き詰った大企業を救う唯一の方法だからだ。ゴーンもスナールも、そして現在進行形で日産はそうである。ゲーム会社も根本は同じなのだ。
資本による誘惑と支配
ただ、ゲーム会社は資本家による支配、という点では他の産業よりも弱く緩い。だからこそ、ゲーム会社はデヴェロッピングはやめて、パブリッシング主体の体制に移行するのは自然である。なぜかというと、パブリッシングは傷を負わずにゲーム販売で利益を上げる有効な手段だからだ。子会社を動かして、新たなるゲームIPを作らせるのだ。『あ、これ売れるんじゃね?』っていうタイトルを作っているインディーゲームデヴェロッパーからIPごと買ってしまう。知名度を生かして大きいゲーム会社はそいつを販売するノウハウを伝授する。販路や広告などを開拓して『こうしたらきっと売れますよ^∀^』と我が物顔でIPを自分たちの支援の輪の中に取り込むわけだね。
100のうち1マイニングできれば良い
すると、特段販路とそのための人員に困ったインディー系のゲーム開発者はこの誘惑の波に乗ってしまう。数割利益配分が減ってもその話に乗っかっちゃうわけだよ。ゲームIPを探索していたゲーム会社・特に大企業にとってこれはチャンスである。自分は傷を負うリスクを冒さずに、安価なカネ回りで支援すれば、100のうち1の割合で大ヒットするタイトルを探すことができる。そいつをマイニングできればあとはもう何の問題もなく、自分たちは支援のカネを送り続ける。ヒットタイトルは有名になり、利益を分割できる。AAAタイトルよりヒットするインディーゲームは100のうち1つ見つかれば良い。残りの99はぶっちゃけ経営上は『必要であって要らない』わけだよ。もっと言うと、『経営上は必要だが利益上はどーでもいい存在』なわけ。
リスクの管理
ゲーム業界は、様々な産業が事業に参入したり入れ替わったり、新陳代謝が極めて激しい業界だ。メガIT企業がゲーム事業に参入し、AAAタイトルの開発・販売に失敗したり、出版社がゲーム産業に乗り入れようとして失敗したりすることも多く見てきた。例えば、アマゾンはAAAタイトルを作ろうとして大失敗したし、講談社のゲーム事業は大成功しているとは言えない(反面、集英社のソレはトントン上手くいっていると思う)。こういう企業性質があるので、特に大企業がゲーム事業に参入するときは、それはパブリッシング部門から始めたほうが良いリスク管理ができるわけだね。
結論
というわけでゲームはデヴェロップからパブリッシュに流れが変わっていくわけ。でもそれがゲームに対する本来あるべき愛情なのか?というとそうではない。『作りたいゲームを作って売る』のではなく『売りたいゲームを探して売る』という代替になっちゃってるからね。本来はゲームってユニークな経営だから前者が正しい。でも経営的には後者になってしまう。随分と辛いけどこれが真実だな!