連載:クマでも読めるブックレビュー

書評アニメ評

【連載:クマでも読めるブックレビュー】紙屋高雪「不快な表現をやめさせたい!?」をなるべく客観的に読み解く

概要 結論から言うと、大変素晴らしい書籍だ。これまでの紙屋氏の書籍の中でも抜群にオリジナリティーが高いのが本書。著者の紙屋氏はもともと漫画評論のサイト管理人として一般的な知名度が高いかた。この書籍は「あいトリ」事件を同氏の法学のバックグラウンドでもってして解析するとともに、「宇崎ちゃん」問題を本来の紙屋氏運営サイトの主旨のバックグラウンドでもってして解析している。紙屋氏のことはぶっちゃけ共産党のシンパでしかないとあたしは思っていたが、本書を通じて大変軸のある・深い意見のあるかただと見直した。 本書が決定的に優れている点 あたしが特に優れている、と感じたのは、「あいトリ」事件を解析した、本書さわりの部分だ。本書にはいくつかの図示が示されている。例えば、表現者と弾圧(わかりやすいのでこの言葉を使ってるだけで”批判派”を貶めるつもりはない)側とを図示しながら、図解している点。これは本当に優れたアイデアだ。思えば「あいトリ」事件の構図の図示っていうのは専門家の解説レベルにおいてもほとんどなかった。テレビで見るのはまことしやかに問題に対して、多様な意見を示す・立派な経...
書評アニメ評

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「Rによる実践的マーケティングリサーチと分析」~Rマーケティング入門から発展に至るまで最強の神本

Rによる実践的マーケティングリサーチと分析 - 共立出版 ええっと、控えめに言って”神”です。数式を使わなくてもここまでの実用的な本ってあるんですね...分野の垣根を越えて見てみると、同じ路線で数式をあまり使わずR中心に開拓しておられのバイオインフォマティクス領域で有名な門田先生の本よりも、より・ずっと”強い”です。ぶっちゃけここまでわかりやすく頻度統計からベイズ統計など基本~発展まで網羅している書籍を”いまだかつて”見たことがありません。章末問題もついてて、しかもそれが、わかりやすすぎて解きやすいので、学部のRマーケティングのレベルは間違いなく本書だけで賄えます。あと網羅っていっても自然体にすべての要素要素が繋がっているので、間違いなくR+経営系の学識者にとって『1万円の値打ちがある!』といっても過言ではない書籍です。もし仮に電子化されたら電子版も買いたいですね。もう一度だけ言っておきます。”神”です。なんではじめっからこれに出会えなかったんだ...迷っているRユーザならば買っておきましょう。 【絶対に買っておきましょう!】 以下あとで追記するヨテイ(スタ...
統計

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「Excel 最強の教科書[完全版]」~統計的には杜撰なところが多い.よってエクセルのノウハウを培うための本.

Excel 最強の教科書[完全版] 【2nd Edition】 | SBクリエイティブ これいい本ですかねぇ...って思うんすよ。ちょっと実例を挙げて批判してみます。 簡単なテーブル作成の部分も腑に落ちない点が多いんですが、特におざなりなのが、相関解析の部分(p264~p273:散布図のビジネスへの応用)です。例えば、確かに本書のp268にはこう書いてある。 右肩下がりの場合も相関係数は正の数値となる。 これ間違ってねえですか?まず、ここらから始めてみて、本書の統計的にダメな部分・疑問な部分を考えていきます。例えば、生物科学研究所の井口豊先生もこうおっしゃってます。 決定係数に関しては,「決定係数は相関係数の二乗だから負(マイナス)にならない」と説明されることがある。しかしこの説明は,二点で明らかに間違いである。まず第一に,決定係数には複数の定義が存在し,必ずしも相関係数の二乗とはならない。第二に,負にならない定義の決定係数であっても,それは相関係数の二乗とは限らないのである。 決定係数R2の誤解:必ずしも相関の2乗という意味でなく,負に...
統計

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「Rによる人口分析入門」中澤港~R併用した人口学入門の傑著・定本

統計ライブラリー 人口分析入門  |朝倉書店 神戸大学の中澤先生による、Rによる人口分析本。 概要 まず、冒頭では、日本の社会保障税一体改革の杜撰さが指摘されています。曰く、『人口減社会で需要減が巻き起こるのは当然のことで、それを見越して需給の計算をしなかったのは”愚行”である』とのことです。けっこう厳しい指摘が入ってますね。これは、中国人起業家の宋も言っていますが、常識で考えれば、増えた世代も負担すべき世代になれば社会の重しになるのは事実でありまして...中澤先生なんかは、このあたりの人口学のご専門なようで、かなり貴重で踏み込んだ意見がけっこう書いてあります。統計ライブラリーシリーズにしては珍しく手厳しいコメントが多くある書だと感じます。中澤先生によると、日本では人類学と人口学が、細分化・専門化されていない、とのことです。たしかにその通りだなぁと。アメリカではふたつがデュアル・ディグリーになっていることも珍しくはないそうです。重ねて言いますが、これはかなり適切かつ辛辣な※だなぁと思い、感心させていただいた次第です。 データの出自とグラフプロットの手法...
書評アニメ評

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層」~イソップ寓話のファクトチェック

本書が”強い”のはいわゆる『池上ブランド』であり、それ以外はない。大体話の筋としては、昨今のメディア媒体で報じられて決まってきたロシア論であって、何も革新的なところだとか、目から鱗が落ちるとかそういうところはあまりない。だが、そのロシア論をおさらいして常識的なファクトを追っていったという点では十分評価に値すると思う。たぶんアマゾンレビューも星4つは堅いだろうな、と思ったら星3.7だった。 否、目から鱗が落ちる、という点も部分的にはある。それがp159からの「べリングキャット」の項目だ。「べリングキャット」というのは、イギリスの民間調査報道機関であり、特別なノウハウを持った機関ではない、と池上は伝える。この「べリングキャット」という民間調査報道機関は、SNSの情報を頼りに部屋にこもったままジャーナリズムを実践する、という特異な体系をとる、エリオット・ヒギンズによって旗揚げされたものだ。いわゆる、市民メディアのイギリス純血版のような立ち位置の報道機関だ。 もともとヒギンズはジャーナリスト志望だったが、大学をドロップアウトしている経緯を持つ(本書は確かに大学ドロップアウ...
書評アニメ評

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「メタネーション」~合成メタンの可能性を感じさせるトリセツ的良書

メタネーション – エネルギーフォーラム 本書「メタネーション」は、最近メディアで盛んに報道されている温室効果ガス削減手法の中でも、マイナーな認知度しかない、メタネーション(サバティエ反応)を主題に取った解説書である。サバティエ反応はフランス人のサバティエさんが1900年代前半に発見したので、その名がとられている。簡潔に化学反応式で表すと次のようになる。 CO2 + 4H2 ⇄ CH4 + 2H2O(ΔH:発熱反応) 簡単にメカニズムを説明すると、貯蔵した二酸化炭素を利用し水素と、触媒を使って化学反応をさせる。するとメタンと水が発生する...というわけだ。発生したメタンを都市ガス網で普及させ、各家庭や企業で使ってもらう。本書が提起するメタネーションの最大の利点として既存のインフラをそのまま使える、ということがある。例えば、ガス管をメタンガス管として代替して取り扱えばいいので、先進諸国でも後進諸国でも既存のインフラを駆使して、メタンを配備することができる現実的手法だ、としている(また、合成メタンはエネルギー効率が水素に比べ悪いが、水素と違い既存のインフラを活用...
書評アニメ評

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「天才美少女生徒会長が教える民主主義のぶっ壊し方」天王寺狐徹~”かなり評価できる政治学入門書”

本書の概要 「天才美少女生徒会長が教える民主主義のぶっ壊し方」講談社ラノベ文庫 結論から言うと、かなりの良書だ。確かに政治学本流の書ではないが、入門としては別格の出来。マジで学部の政治学入門の授業で使って良いレベルだ。分かりやすく書いてあるし、ほぼほぼ妥当なことしか言っていない。しかもオリジナルな対比論が多くあるので面白く読めるんだ。例えば『宗教として憲法を読み解く』『憲法(constitution)本来の意味を考えよ』といったところから始まり...『イギリスの民主主義』『絶対王政の台頭』など、現代(2023年の今読み返してみても...)から見てもかなりホットで現在進行形の話題が多く散りばめられている。また、”散りばめられている”といっても、個々の要素がバラバラになっているのではなくして、それらが一体化していく様子もしっかりと本全体から書ききっている。だから、読んでいて面白い。話が点と線で繋がっているので、個性的な語り口から述べられているのに、一冊が評論としてしっかりまとまっている。 弧徹が提示する『宗教論』 そのうち、一番重要な主張が間違いなく本書の提示する...
書評アニメ評

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「かがみの孤城」~辻村深月

かがみの孤城|一般書|小説・文芸|本を探す|ポプラ社 確かに良く出来ています。構成もそれほど無理はないです。伏線、というほどの伏線でもありませんが、しっかり伏線らしきところ・微細なところを回収できていて良くまとまっています。文章の書き方も主人公であるこころを軸としてうまく語らせることができている。そして後半に行くに従い、多面的に人物像が描かれるので多段的かつ加速度的に面白くなっていきます。そこは評価します。 ただ、前半部・特に上巻はまどろっこしいところがあるように感じます。前述した多段的な面白さをもっと早めに持ってきたらいいんじゃあないか?とも思いますね。あと良くも悪くも文章がライトノベルみたいなんですよね。文章が薄っぺらいと感じます。例えば、この本を精読する必要があるのだろうか?とも思いました。小説とは言えども、構造主義みたいなインスピレーションを与えるような書物でない。あくまでも、大衆小説で、しかも最近のテクニカルなSFっぽさを若干混ぜているような印象を受ける。 そうだねぇ,,,例えるならば、本書の文体は綿矢さんみたいに軽いんです。描く世界観はけっして大...
書評アニメ評

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「タイピングハイ!」長森浩平~一介のNetflixerが足りない頭を懸命に振り絞って既存の映像作品と比較してみる

書評の概要 ライトノベル「タイピングハイ!」これねえ,,,もったいないんですよ...本当にもったいない...。だって、9回目のスニーカー大賞優秀作ですから。読んだのは10年以上前なんだけど、今思い出しても、本当に構成が天才的なんですよ。まずは、それに尽きる。テーマとしては学園もの・AI倫理・部分的に萌え要素、と言った三拍子の感じなんですけど、図解しないと詳細なストーリーの行く末が見えないぐらい論理的に話が構成されてるんですよ。つまり穴がない。矛盾点が極めて少ない。ほんっとにこれに尽きる。論理性でストーリーが構築されているから、そのメインプロット単独の存在だけで真価が非常に優れている。 Netflixerが語る「ウェンズデー」「クイーンズ・ギャンビット」との比較 ちょうど今ネトフリで「ウェンズデー」が流行ってますけど、構成のしかたはあれに近い。「ウェンズデー」がダークコメディサスペンスに属するものだとすれば、こっちは準萌え系のAIものという、こちらもこちらですごくいい主題であることに間違いない(一部ハヤカワSFから出版してもいいっていう声があるけど、若...
書評アニメ評

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「ネパールのビール」吉田直哉~それは懺悔と涙の物語

本書「アンソロジー ビール」の中で珠玉の完成度を誇るのが「ネパールのビール」だ。吉田直哉というNHKのキャリアディレクターが書いたもので、こいつはたしかに相当感動ものだった。内容はどのようなものだっただろうか?ちょっと要約してみよう。 吉田をはじめとして彼らはディレクターとして取材活動にネパールを訪れていた。だが山岳歩行ルートのことを考えていくとビールは持っていけない(重いから)。だから少年に頼んでビールを買ってきてもらうことにした。彼にビールを買ってきてもらうことを頼むと、きちんとビールを買って持ってきてくれた。その後、また買ってくるよといってくれたので、かなりの量を頼んで買ってきてもらうことにした。だが、二度目は待てども待てどもはだしの少年は帰ってこない...。 学校の先生やその周りの人に相談すると、「ビールダースの大金を少年に与えたのだからそれを持って逃げたのだ」という。 吉田はこう思った。「不慮の事故かもしれない...あるいは少年にだましの悪行を働かせてしまったかもしれない...」と。そう思ってずっと待って二日後、彼(少年)は戻ってきた。なんと隣の山を越えて、ビ...