【連載:クマでも読めるブックレビュー】「NETFLIX コンテンツ帝国の野望」~ブロックバスターを経営破綻に追いやった経緯を描いた書 | ゲヲログ2.0

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「NETFLIX コンテンツ帝国の野望」~ブロックバスターを経営破綻に追いやった経緯を描いた書



NETFLIX コンテンツ帝国の野望 ※Amazonより.
本書に期待してはいけないところ

本書の副題は「GAFAを超える最強IT企業」副題に反して、本書が紐解くのはNetflixの創業~成長の過程である。反面、既得市場利権を貪るゾンビ企業との闘いを主として描いているので、あくまでジャーナリスティックにNetflixの成長の軌跡を描き出したというだけの書である。だから、目からうろこが落ちる書ではない。MSやアップルといった大学生によるガレージ創業組とは異なる、貴重なベンチャー成長事例として扱った方が良いだろう。ただ、日本語版には著者による最近のネトフリの動向が一定程度示されていて、そのあたりが、現在のネトフリの立ち位置の事実上の解説になっている…といったところか。

副題は「ブロックバスターとの闘い」にした方が良かった

繰り返すように、ネトフリの物語・特に起業期の物語にフォーカスしているといっていい。当然その物語の中で、アメリカのTSUTAYAとされる、DVDレンタルを手掛けていたブロックバスターの経営破綻にもふれられている。否、むしろネトフリがブロックバスターとどのように戦い、市場を飲み込んだかを描いた書であるといった方が正しい。本書の主題は、NetflixがGAFAを超えるプロセスに焦点をあてたものではない。ブロックバスターを経営破綻に追いやったネトフリのデジタル革命の功績の地味な部分についての書である。DXの波に乗り遅れた企業はこれほどまでにチンケに取り扱われる時代は”すぐやってくる”どころか”もうやってきている”。アメリカはビジネスの新陳代謝がこれほどまでに早い。訳者である牧野が言うように、日本では米国のブロックバスターに相当するTSUTAYAが未だに健在であり財産の情報化(情報材の取り扱い方)に、各企業体制が、どころか国の体制ごと乗り遅れているというわけだね。つまるところ、本書は日本や日本人にとって極めて耳の痛い・だが、DX化という時代の予測を同時に提示している書にもなっている。

ネトフリの影響力

今、エンタメ業界で共通しているトレンドはインターネット配信を中軸とした、配信網の構築であることに間違いない。CESに登壇したリード・ヘイスティングは、エンタメの分野で革命を起こしたネトフリのCEOであり、元サラリーマンの脱サラ組。ネトフリの創業メンツも同じようなもので、脱サラ組が多いという。つまり、ビジネスに精通したプロフェッショナルが、確保された年収を捨て、新しい夢を見て、業界から飛び出してきて出来たベンチャー企業というわけ。これは大学生によってガレージ創業されたMSやアップルとは若干違う毛色、である。DVDレンタル業という古典的物理財産の構築から始まったネトフリは、今やデジタル革命時代の寵児である。世界中の言語に精通したコンテンツは、配信網がネットなことを利にいかし、オリジナルな番組制作にまで派生、しかもそれらは栄誉ある映像業界の賞に誉れた。Netflixの成功を機にHBO/CBS/Amazonなどがコンテンツ制作に巨額の費用を投じることを決定。印象的な言葉に「コードカッティング」とある。これはケーブルテレビの契約を切り、インターネットストリーミングに契約移行することを示す言葉だそうだ。そしてキラー企業(ライバルと表現した方が正しいかもしれない)として、ディズニーワーナー(AT&T社)が颯爽も登場しこの分野の経済は活性化しているというわけね。

本書の欠点

ただ、本書が良いポジションを取っているのは、あくまでNetflixの成長の部分の在り方を論じたものである点に留まる。経営的な深い意義やGAFAとの比較考察がされているわけではないのだ。また、ジーナとしても困る指摘だろうが、レコメンドエンジンについての記載はあくまで部分的な解説に留まっていて『こういうアバウトなアルゴリズムを採用した』としか書かれていない。もちろん本書は技術書ではない。それゆえってこともありエンジン採択のためのコンペをネトフリが手掛けたぐらいの知識しか、技術の特徴的なものの中で本書では手に入らない。それはそれでいいんだけど…あくまでエンタメ系のジャーナリストによる書、であり、Netflixがブロックバスターを打倒した”昔取った杵柄”を再考する書になっているだけである。そういう意味では、類書があまりない点が唯一賛美できる書と酷評するレビューがあってもおかしくなく、むしろそりゃ理解できることである。