【連載:クマでも読めるブックレビュー】「タイピングハイ!」長森浩平~一介のNetflixerが足りない頭を懸命に振り絞って既存の映像作品と比較してみる | ゲヲログ2.0

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「タイピングハイ!」長森浩平~一介のNetflixerが足りない頭を懸命に振り絞って既存の映像作品と比較してみる



書評の概要

ライトノベル「タイピングハイ!」これねえ,,,もったいないんですよ…本当にもったいない…。だって、9回目のスニーカー大賞優秀作ですから。読んだのは10年以上前なんだけど、今思い出しても、本当に構成が天才的なんですよ。まずは、それに尽きる。テーマとしては学園もの・AI倫理・部分的に萌え要素、と言った三拍子の感じなんですけど、図解しないと詳細なストーリーの行く末が見えないぐらい論理的に話が構成されてるんですよ。つまり穴がない。矛盾点が極めて少ない。ほんっとにこれに尽きる。論理性でストーリーが構築されているから、そのメインプロット単独の存在だけで真価が非常に優れている。

Netflixerが語る「ウェンズデー」「クイーンズ・ギャンビット」との比較

ちょうど今ネトフリで「ウェンズデー」が流行ってますけど、構成のしかたはあれに近い。「ウェンズデー」がダークコメディサスペンスに属するものだとすれば、こっちは準萌え系のAIものという、こちらもこちらですごくいい主題であることに間違いない(一部ハヤカワSFから出版してもいいっていう声があるけど、若干萌え要素が強いのでそうは思わん-スニーカー文庫がちょうどいいと思う)。同じネットフリックスものでも「クイーンズ・ギャンビット」なんかはストーリーのマンマ本筋で勝負だったやんか?これとか「ウェンズデー」はストーリーの構成力なんですよね。だからこそ,,,いくらでも作り込めたはずなんですが…(後述)

今語る「ウェンズデー」の魅力

「ウェンズデー」って場面場面でキャラの立ち位置が目まぐるしく変わるじゃない?んで、ストーリーが進むにつれてそれらの登場人物が交錯していろんな景色を構成してるってかんじじゃん。んでひとつひとつほどけていってコアな部分が明らかになる。核心部が見事に見えてくる。その観点ではこの「タイピングハイ!」はまったく引けを取らないほどの構成力持ってるんですよ。

すごく執筆の仕方が高度で、場面場面での描画も適切。それらが集まって全体を構成してるから、ほんっとに矛盾点とか突くべき穴がない。「ウェンズデー」が完成されたダークコメディサスペンスならば、こちらもこちらで高い完成度を持つ、出来立てでかつ完成されたライトノベルなんすよ。あえて構成力を純小説で例えるならば、サン=デグの「夜間飛行」だと思うんですよね。あっち来たりこっち来たりと展開が目まぐるしく変わるのに、統一性があって・一貫性があって・図解して紐解くことができる。んで腑に落ちる。登場したてであるのにもかかわらず素のままで既に完成体なんだよね。

加えてキャラクターもすごく魅力的と来てる。この点でも「ウェンズデー」に近いスタンスがある。例えば、ヘッドマウントディスプレイを付けてる生徒会長の表裏のあるところ、だとか、ウェービーの萌え系に属してる上での主人公とのコンビ性だとか。人物の魅力ってのも話の構成力と同じでこの手のフィクションエンタメではすごく重要なわけよ。ウェンズデー・イーニッド・ゼイファーとか人物の色模様が多彩で個々人としても完成されてて、それでいて気持ち悪くならないすごく良好な人格性があるのが「ウェンズデー」の魅力だったやん?よくよく考えると、かなりこの小説に近いじゃんってわけですよ。

続刊が待たれるも期待はできない…

んで、長森さんってもう書いてないんだよね…二作目の「いじっぱりのウェービー」以降、他のシリーズもないし。だからこそもったいないんだよね。これマジ続刊出してくれよ…知名度は極めて少ないものの、本当にもったいない『天才』の書いたライトノベルなんです。復帰してくれないかなぁ,,,

※書影:Amazonより.