【連載:クマでも読めるブックレビュー】「ウクライナ戦争は世界をどう変えたか」豊島 | ページ 2 | ゲヲログ2.0

【連載:クマでも読めるブックレビュー】「ウクライナ戦争は世界をどう変えたか」豊島



まず、第一章ではロシア・ウクライナの分析とサイバー戦分析・核使用に関する項目があります。このうち様々なメメントの分析はさすがの豊島さんということで、”知らなかったこと”を”ある程度知ること”に変えてくれました。特に序盤のロシア・ウクライナの分析は良い項目です。ただ、終盤の核使用の箇所などはあまりに表現としても内容としてもうすいし、中身がないです。アイデア頼みになっていて、本の構成として良い項ではないと言える。この手の先達だと、TV出演で有名になっている高橋先生と小泉先生らのチームによる、核に関する専門書があるのでそっちを併読するのは必須です。というわけで終盤にかけてまとまりを欠いている、という章です。

第二章では、ウクライナ戦争のきっかけを紐解いていますが、それほど本格的に分析がされているわけではないです。例えば、ロシアのリーダーシップ論が多く書面を占めているのがこの章後半部分なのですが、こういう事実があってこういうフローがあって、っていう説明書きに徹していて、じゃあロシアが戦争を起こしたきっかけが、目から鱗落ちるようなアカデミックスキル用いて分析がされているか?というされていない。例えるなら、プーチンの今を解析したいのであれば、心理学者のような発想は必要だと思うし、無論、国際政治学者のような発想も必要だと思うんですよ。あるいはそれらのハイブリッドな分析とかね。でも本書にはそういう専門的な知識はあまりなく、教養止まりになっている。おそらく本書の批判はこの批判に尽きます。

第三章はどうでしょうか?この章はダイアログとしてウクライナの現状を解いているだけで、ああそうか、と思う。批判できる・批判すべき点はほぼないです。

お次、第四章。おそらくここがNATOがらみの章なんだと思うんですよ。本書が本来問いたかった、世界の反応というところです。ですが、あまりに史実・歴史に乗っ取っているので、ロシアと戦ってきた歴史にフォーカスしすぎていて、現代のロシアと戦う意義—経済的にも軍事的にも—という意味合いでは深~い論じ方はあまりできていないです。

第五章はあまりに発想に忠実過ぎる章ではないでしょうか。いわゆる斬首作戦に関するところですが、じゃあ斬首作戦って軍事学的などういう意義があるんですか?っていう反論は考えられるよね。これも専門家による他書とか当たった方が良いレベルで、あくまで教養止まり。本格的な国家元首の暗殺攻撃に関する考察はあまりない。これ言うなら、例えば、ウクライナの大統領と英米の特殊部隊の機密行動の関係性とかスパイ能動的な発想が解説として求められるのに、その辺りのカバーリングは無きに等しい。ちょっと”足らない”です。

では、第六章はどうか?ここは台湾情勢を巡って日本との関係性を紐解いた第七章とくっつけてレビューしますが、結論から言うとあまり良い提言にはなっておらぬ。”起きるどうか”ではなく”いつ起きるか”と書いてあるけど、書物として論じるのであれば、その”起きるかどうか”という分析は重要だと思うんです。”いつ起きるか”を考える上で、”起きるかどうか”はやはり必要な考え方であって、なぜそうなのか?という理由の追求に乏しい。確かに軍事の脅威を数でもってして表現することは極めて重要だしそれはできている。でもそういう形での提言は幾らでも他書で解説されているし、より精緻精細な軍事的な解析でも”起きるかどうか”も含めてもっと大局的に論じている論文とかってあると思う。だから…ということもあってか、シナリオベースで第七章に突入していて、分析・解析の深いところにまで刀が通じていない印象を持つんですよね。確かに考察としては面白い。


…とかなり酷評しましたが、ジャーナリズムの本としては基本はしっかりと抑えていて、良く出来ています。読む価値があるし、特に筆者のシームレスに論を繋げていく姿勢には頭が下がります。報道のファクトという性質には徹しており、本当に良いスタンスを呈示できています。ですが、より深みを求めたいハードな読者にとってはあまり良い評価を受けられるだけの本ではない、というのがあたしの意見です。

結論から言っちまいますが、ふつーにごくある良書の部類に入る本です。

<了>