なぜ「TYPE-MOON」ブランドはコンテンツだけで売り上げを伸ばすか?【「月姫」に見る戦略】 | ページ 2 | ゲヲログ2.0

なぜ「TYPE-MOON」ブランドはコンテンツだけで売り上げを伸ばすか?【「月姫」に見る戦略】



コンテンツの中身をバラすだけの”ちくり君”はいらない

つまり、今ここに三つの選択肢がある。

・財、サービス、コンテンツを売る。

・投機的ビジネスに走る。

・その双方を押さえる。

このうち「月姫」などの原案元である有限会社ノーツは”コンテンツを売る”方向を向き続けている。投機的ビジネスに走るというのは、子会社を多く持ったり買収したり、金融などの多角化に走ることだろう。ライザップはそうしているし、KADOKAWAはニコニコ動画やフロムソフトウェアを買い取って、ほぼ完全な持ち株会社になった。Appleのやり方を真似て孫正義はメディアアピールを巧みに駆使し、株価を釣り上げて投機で巨万の富を築いた。その”親玉”のいるソフトバンクもM&A戦略の一環でボストンダイナミクスをGoogleから買っている。将来性を見越して多くのスタートアップに投資・投機する方法だ。これらが二番目の”投機的ビジネスに走る”やり方だ。

第三に、コンテンツ産業と投機的ビジネス双方を押さえてしまう方法”その双方を押さえる”手法もある。これがBungie創業者アレクサンダー・セロピアンのやり方だろう。ビジネスを立ち上げて、コンテンツで利幅を取る。そうしてから、大手の会社に会社ごと売ってしまって、自分は新しい会社を立ち上げる…これはコンテンツと投機の双方に通じていないと通用しない、プロ中のプロだけに許されたやり方だ。後BungieはHALOという巨大シリーズを抱え、MSの傘下に入ったり出たりしながらも、今年のホリデーシーズンにシリーズ大作を出すに至った。

「月姫」の売り方が初回特典版を多く持つのも理由がある。これもコンテンツを売ることを投機的アイデアよりも重要視し、あくまでソフトウェアのセールスの売上を見据えているからだ。コンテンツ産業は利幅の取り具合を多く設定できる無形財である。a b c d eというコンテンツの要素を設けて、そのエレメントを巧みに駆使しながら、いくつかのバージョンを設定する。これは経営学の理論上しっかりとした理に適ったやり方だ。MSがWindowsのOSをいくつかのエディションに分けて分割販売していたころのことを思い出してほしい。5つのエレメントがあれば、それらを交互に作用させ売りつけることができる。そうすれば、より多くのコンテンツを、熱狂的なファンの購買精神に答える形で売ることができるのだ。

だから、第一の手法を「TYPE-MOON」というブランドがとる限り、コンテンツを売るためのそのリソース管理をしっかりとすることはノーツ首脳陣にとって重要なのだ。コンテンツの多様性を認め、その交絡をうまく機能させることで、売り上げを伸ばすことを容易にできるからだ。その際、重要なのはコンテンツの内容をネタバレしてしまう購買者を、しっかりと、少なくともそのまっとうな権利部分からだけは徹底して排除することだ。だからこそ、CS版「月姫」はプレイ動画を流すことは禁止しているわけだ。

コンテンツの中身をバラすだけの”ちくり君”は、はっきいいえばコンテンツの原権利者からすれば、邪魔な存在に他ならないのだ。