ノーツの「TYPE-MOON」ブランドの多角化戦略 | ゲヲログ2.0

ノーツの「TYPE-MOON」ブランドの多角化戦略



前座

以前も言ったことだが、有限会社ノーツのゲームブランド「TYPE-MOON」はIPの戦略上誤謬がまったくないことで有名だ。この理由として前の記事で終始あたしが述べたことは〈ノーツ首脳陣が情報財の性質をよく理解しているから〉というものだったが、今回は別の局面から「TYPE-MOON」を紐解いてみたいと思う。今回のキーワードはずばり『多角化』である。

FGO解説漫画に見る自然な多角化

「TYPE-MOON」ブランドを運営するノーツは、WEB・漫画・出版事業にも長けていることで有名だ。その代表的な事例が、今回参考とするウェブコミックの「マンガで分かる!Fate/Grand Order」だとあたしは思う。このウェブコミックは、言わずと知れた「FGO」[Fate/Grand Orderの略称]…スマホ向けのFate-IPのRPGメガヒットタイトルがらみの連載漫画である。ここで注目すべきいっちばん重要な事は、その漫画の内容(正確に言うとその変遷)に他ならない。そもそもこのウェブコミックは「FGO」のシステムとかゲームそのものの中身の解説をする、という体裁で始まったものだったが、連載が続くにつれ、(当然ちゃー当然だが)ごく自然とネタがなくなってきたという。だので、オリジナルコンテンツを連載するということに相成り今日に至る、「FGO」のサポート的な位置づけを併任する長寿人気漫画になっている。

ニデックとソフバン

重要なのは「TYPE-MOON」がこういった自社IP事業に対して、ごく自然と派生する形で多角化を推し進めてきたことだろう。これは明らかにM&Aでは達成できないことだ。先日、工作機械メーカTAKISAWAを買収した永森率いるニデック(旧日本電産)や、半導体メーカARMを買収した孫率いるソフバンは、M&Aによって事業を急速に拡大してきた。これらの大企業はコングロマリット型の多角化を強力に推し進めてきたわけだ。だが、先に書いたようにノーツ率いる「TYPE-MOON」ブランドはこういった方法で事業を進めてきたわけではない。言うなれば、同ブランドは多角化において〈本業推進型〉だとか〈水平垂直型〉だとかいわれる方法論に基づくものばかりなわけだ。

シナジー・オブ・ノーツ

つまり、『これまで開拓してきた市場にこれまでとは若干毛色の違った商品を投入する』という戦略を同ブランドは取っている。これにはもちろん、メリットもあれば、デメリットもあるはずだ。例えば、リスク分散という形で考えてみよう。いずれIPの人気に陰りが見えて来たとき、この商品多角化の事例は強いデメリットになりえる(実際一つのIPの人気の陰りによって経営危機を招いたゲーム産業やサブカル産業は多い)。一方で、シナジー効果を生むというメリットも考えられる。むしろ、多角的な商品投入により、IPの人気をより深めることでその専門性を強め、各商品の相互影響効果を良い形で生み出せることにもつながるかもしれない。その当然の帰結として企業経済性が良くなり、経営の潤滑性に寄与できる、ということも考えられるだろう。未知の領域に新規商品を投入したり、非効率へ帰結したりすることがないというメリットもあるはずだ。

小さな多角化・壮大な物語

もちろん、ニデックやソフバンのやり方が間違っているわけではない。彼らは、大企業だからこういった英断が出来て、新規事業の掘り起こしになにがなんでもがむしゃらに取り組める。だが、ノーツはそうしていない。ノーツは(前も述べたように…)あくまで特例有限会社であり、ごくごく小規模な企業だ。だが、多角化の方法に長けていて、IPの人気に陰りが出ない限りこの路線でいくだろう。また、IPに別な味を付け加えて、世界観を広げていくという方法も実践してきた(上で述べたことの繰り返しだけど)。誤解を恐れずに言えば、どっちかっていうと経営判断のやり方は、明らかに2chの創設者で4chanの経営に現在携わっている、ひろゆきに近い方法だ。これまた前も述べたが、誰もが想像できたテーブル上のRPGがブランド「TYPE-MOON」の始まりだった。IPは展開性に富んでいて、柔軟に多角化に適するものだったわけだ。そうして、ごく自然と出てきたアイデアのマネジメントに徹するが故、ノーツその収益性はすさまじく高い…ということが素人目にも推察できるはずだ。