2019年8月とかなり前のことで恐縮だが、国際法学会のエキスパートコメントという項で、阪大の和仁教授が徴用工問題で”ド正論”を語っている。この訴訟を巡っては、国内でも国外でも右派のかたの意見・左派のかたの意見の双方があることはよく知られている。ただ、このコメント内で和仁教授の言っていることはかなりバランスよく考えられている、といっていいとあたしは思う。手っ取り早く言うと、『日本は優勢なのは事実だが、韓国の言い分がまったくないわけではない』と和仁教授はこの※内で語っている。和仁教授はこう書く。
条約の締約国は、その条約の義務を守らなければなりません。国家が条約を守る際、条約義務の内容がわからなければどういう行動をとればよいのかわかりませんので、国家は条約をまずは自ら解釈します(自己解釈(auto-interpretation))。自己解釈は他の締約国を拘束しません。強制的管轄権をもつ裁判所がない国際社会では、複数の自己解釈の併存という事態がしばしば生じます。請求権協定をめぐる日韓の対立も、2つの自己解釈が対立・併存している状態と理解できます。本コメントで述べてきたように、日韓請求権協定の解釈としては日本政府の解釈の方が自然だとは思いますが、韓国大法院の解釈が完全にあり得ないかというとそんなことはなく、「国際法に照らしてあり得ない判断」と断定して済むような話ではありません。日本政府の解釈の方がより妥当であることの説明が必要です。
なお、日韓請求権協定には、自己解釈の対立・併存を解消するための手続が用意されています。協定の解釈・実施に関する紛争の仲裁委員会による解決(3条)という手続です。「紛争」の存否は客観的に認定され、仲裁手続に応じることは協定上の義務です(阿部浩己「日韓請求権協定・仲裁への路:国際法の隘路をたどる」『季刊戦争責任研究』80号(2013年)26-27頁))ので、韓国が仲裁手続に応じていないことは、それ自体が国際法違反を構成します。
元徴用工訴訟問題と日韓請求権協定 – 国際法学会 “JSIL” Japanese Society of International Lawより引用.
和仁教授の意見によると法的に自明であることがある。それをまとめると…
・当然のことだが国際条約の締結国はそれを守る法的義務を負う.
・ただしその条約の自己解釈(『言い分』)は他の締結国を拘束できない.
・この請求権協定がらみの問題はすべてがこの二つの自己解釈の国家間対立である.
・どちらかといえば日本の立場のほうが解釈として妥当であることも事実.
・だが『韓国の言い分がないわけではない』ので故に…
・安倍政権(当時)が「国際法に照らしてありえない判断」と断定して済む問題ではない.
・よって日本の言い分の妥当性をより強く主張できる材料がもっと必要になる.
・なお日韓請求権協定には両国の『言い分(自己解釈)』を解消するためルール決めがある.
・この部分で仲裁手続きに迅速に入らない韓国には明らかなる非がある.ということである。
この主張は日本国内では橋下徹氏の主張とかなり似ていると思う。つまり、国際裁判になる(見込みがある)以上、両国の言い分のつじつま合わせを法論理的に行い、それを元に判決を下すことが当然の結果であるのは自明であるからして、相手国の弱みをロジックで突き詰め合わせて、相手を論破する必要があるという立場(これは日本国の側に立った意見で、韓国も同じように自国の国益を追求して意見して来るので、双方同じスタンス)。では、和仁教授の言う『韓国の言い分(ここが肝心!)』とは何なのか?ということも教授のExC内でしっかり触れられているのでそれを次ページで検証していく。