「Unreal Engine」と並び世界で最も有名なゲームエンジンのうちの一つである「Unity」を巡って批判が止んでいない。「Unity」はシェアナンバーワンの地位を占める、IDE内蔵の有力ゲームエンジン1)。本記事ではこの”Unity税”問題の大筋の流れと波及の様子を追っていく。
批判の発端となったのは、一定の閾値を超えたインストール数に応じて開発者がさらなる追加料金を払わなければならないとする「Unity Runtime Fees」の発表だ2)。チョーかいつまんで書くと、これは開発者側がUnity Technologiesに、開発タイトルのインストール数に応じて税金のような形で追加料金を払わなければならない、とする制度のことだ。既にこの守銭奴的な集金システムを揶揄する形で日本のネット界隈では、通称”Unity税”と揶揄されている3)。追加料金が閾値を超えたインストール数に応じて上乗せされる…まさに税金のごとく、だ。
Today we announced a change to our business model which includes new additions to our subscription plans, and the introduction of a Runtime fee. We wanted to provide clarifying answers to the top questions most of you are asking.
— Unity (@unity) September 12, 2023
Yes, this is a price increase and it will only…
この”Unity税”を巡っては、海外のゲームデヴェロッパからも批判が殺到している。AUTOMATONの記事によれば、人狼ゲーム「Among Us」で知られるInnersloth・カルト教団運営ローグライトACTゲーム「Cult of the Lamb」で知られるMassive Monster・サバイバルACTゲーム「Rust」で知られるFacepunch Studios・デッキビルド型ローグライトゲーム「Slay the Spire」で知られるMega Crit…といった、そうそうたるデヴェロッパたちが”Unity税”への批判を高めているという4)。
Stop the stink @unity pic.twitter.com/ijme9wQ89m
— Massive Monster 🙏🐑 (@MassiveMonster) September 13, 2023
👋 @unity pic.twitter.com/mBCfb8li3z
— Mega Crit (@MegaCrit) September 13, 2023
Unityは批判に答える形で、この方針を撤回し新しい形態を考えるとしているが、Unity Technologiesは先行きの見通しが甘いなどとする批判は止んでいない5)。一部の有力デヴェロッパは、”新料金プラン(Unity税)自体は負担にはならないが信頼を失う行為である”としたり6)、”脱Unity”を提唱したりしている7)。
We have heard you. We apologize for the confusion and angst the runtime fee policy we announced on Tuesday caused. We are listening, talking to our team members, community, customers, and partners, and will be making changes to the policy. We will share an update in a couple of…
— Unity (@unity) September 17, 2023
問題の根幹にあるのは”Unity税”そのものに留まっていない。”信頼の失墜”を理由として、脅迫まがいのようなことまで起きている、というのだ。Unity Technologiesは脅迫を受け、自社オフィスの一部閉鎖にまで追い込まれた8)。サンフランシスコ市警が語るところによると、この”Unity脅迫騒動”は同社の内部社員が料金プラン変更に抵抗するために行った一連の行為だったとのこと9)。また、ほぼ同じ時期に書かれた邦語ゲームメディアの記事によると、一連の”Unity税”騒動は、同社のコアコアスタッフによるインサイダー疑惑まで問題は波及しているとする見方まである10)。どうやらUnity Technologiesも一枚岩ではなさそうだ。
価格変更を断行したUnityが脅迫を受けて複数のオフィスを閉鎖https://t.co/Py9p8qx7Pz
— GIGAZINE(ギガジン) (@gigazine) September 15, 2023
このように、問題はUnityの外部のみならず、Unityの内部問題、果ては内部分裂にまで浸食する恐れが高いと言わざるをえない。昨今、企業のガバナンスに関しては、社会から厳しい姿勢と是正が望まれて久しいが、私感ではアメリカを代表する世界随一のゲームエンジン企業の凋落は避けて通れないように見える。おそらく日本を代表するゲームジャーナリストの一人、4Gamerの奥谷記者も、この問題について近々間違いなく同誌でリポートするだろう。
1)Unity(2021)『2021 ゲーミングレポート』https://create.unity.com/2021-jp-game-report(2023年9月20日)
2) Unity(2023)『Unity Runtime Fee | Unity』https://unity.com/ja/runtime-fee(2023年9月20日)
3)Game*Spark(2023)『DL回数に応じた”Unity税”導入に業界騒然―「Unity Runtime Fee」突如発表の大きな余波がゲーム業界を揺るがす?』https://www.gamespark.jp/article/2023/09/13/133960.html(2023年9月20日)
4)AUTOMATON(2023)『Unityが新料金システムは「料金面でほとんどの開発者に影響はない」と再々説明。『Rust』や『Slay the Spire』開発者らが“信頼失墜”として怒る中説明に奔走 – AUTOMATON』https://automaton-media.com/articles/newsjp/20230914-264216/(2023年9月20日)
5)Game*Spark(2023)『波乱巻き起こすUnity税、“見直し”の内容は「ゲーム収益の4%に制限」「利用料発生までのインストール回数は遡及されない」で検討もモデル自体の変更は変わらず | Game*Spark – 国内・海外ゲーム情報サイト』https://www.gamespark.jp/article/2023/09/19/134167.html(2023年9月20日)
6)AUTOMATON(2023)『ゲームエンジンUnityの「新料金システム」に人気ゲーム開発者達が激怒。『Among Us』『Cult of the Lamb』が脱Unityを検討、軋む信頼の牙城 – AUTOMATON』https://automaton-media.com/articles/newsjp/20230914-264184/(2023年9月20日)
7)AUTOMATON(2023)『ゲームエンジン「Godot Engine」の利用者が急増中。Unityの新料金システム発表を受け、乗り換えを模索する動き活発化か – AUTOMATON』https://automaton-media.com/articles/newsjp/20230918-264924/(2023年9月20日)
8)AUTOMATON(2023)『Unityの複数のオフィスが「脅迫」を受けて一時閉鎖に。新料金システム導入を巡る混乱続く – AUTOMATON』https://automaton-media.com/articles/newsjp/20230915-264542/(2023年9月20日)
9)AUTOMATON(2023)『Unity、脅迫によりオフィス一時閉鎖も「社員が犯人だった」と現地警察が伝える。別の元社員は「新料金システムに強く反対したが強行された」と事情を吐露 – AUTOMATON』https://automaton-media.com/articles/newsjp/20230915-264713/(2023年9月20日)
10)Game*Spark(2023)『公式FAQ発表も“Unity税”広がり続ける波紋…『Cult of the Lamb』ストア削除にジョークの可能性浮上も、有名開発者らの激怒は続きUnity首脳部は発表に先立ち株式売却か | Game*Spark – 国内・海外ゲーム情報サイト』https://www.gamespark.jp/article/2023/09/14/134011.html(2023年9月20日)
※冒頭の画像:Wikipediaより引用(パブリック・ドメイン)