【連載:サルでもわかる漫画レビュー】「SPY×FAMILY」【縮約の平和と仮初の家族の物語】 | ページ 2 | ゲヲログ2.0

【連載:サルでもわかる漫画レビュー】「SPY×FAMILY」【縮約の平和と仮初の家族の物語】



主題の遷移

そういう意味で、しばしば戦争になりがち、小粒な小競り合いは多く存在し頻発・散発していて、先に書いたようにバランスオブパワーという話の内枠に収まりがちな情勢が描かれる。大きな紛争を描くのではなく、それを予防し誘発しかねない力に対する対抗のため、ロイドもヨルも動く…というのがストーリーの本筋であり、ほぼそれだけが実際の彼らの世の中に対する理解示せる限度・実行力の限界です。こういう意味で、彼らロイドとヨルは物語の定型枠に収まってしまっていて、本来のあるべき大切な”家族”というものとは基本的には無縁なはずなんですね。だから彼らの家族像はあくまで【仮初の家族】なのです。ですが、アーニャという里子が加わって、仮初ながら家族が一様出来上がる。ここに至って、ロイドとヨルの平和論は実際の抽象系から実存系に遷移していくわけです。

ふたつめの主題【仮初の家族】

現に物語しょっぱなから、アーニャは登場しますよね。つまり、ロイドという人物のみならず、子供(里子)を任務上引き受け、そうした家族像のありかたの探索という面で、ミッションに沿ってヨルという妻も持つ。これは実際の話の筋とは逆のベクトルに沿っていると思います。本来ならば、まずは妻を持ち、子供を持つ…現実的にはあたりまえのステージの進行の形ですが、その”家族”は当然元来あっていい家族ではなく、むしろあってはならない家族です。だって、スパイが父・妻が暗殺者です。あってはならないどころか、ありえない家族です。でもそれが漫画の中で存在しているということは、その家族像が非常に綱渡り的で不安定であり、【仮初の家族】であるということの実存的証明になっていると思います。物語の売り文句が、『スパイの夫』『エスパーの里子』そして『暗殺者の妻』ですからねw…ありえなさがありえる家族像を作っていく…次第にです。ここでもまた、マクロ的な平和論と同様、抽象系から実存系へとの家族の形の遷移が見て取れます。ロイドとヨルの平和の進展は、アーニャという貰い子を受け、抽象系から実存系へと遷移するわけです。あくまで結果論ですが、家族の形を希求するうえで、平和の希求にもなっている。