記事の要約:SONYのPS5はハードウェアにこだわりすぎた末、WiiUのように失敗しつつある. 王者の風格の前に跪き、その結果、黒船軍団に囲まれ集中砲火を受けるだろう. 成功したければ、今からでも遅くはないので、ソフト自体の供給網整備に全力を注ぐべきだ.
”PS5の専用ソフトがあまりにも少ない”というJ-CASTニュースの記事を見た。『PS5発売もうすぐ1年 ゲーム機まだ買えないし「専用ソフト」も全然ない』と銘打った記事の内容を簡潔にまとめてみるとこうだ。
★PS5の抱える問題点
・なによりも専用タイトルが少ない.
・横タイトル(プラットフォーム間をまたぐタイトル)や縦タイトル(PS4からの継続タイトル)が多い.
・ハードウェアであるPS5が普及していないのにソフトウェアが普及する見込みはない.
・ゲーム一本あたりにつき得られる収益が近年低減してきているのもPS5が直面する事実.
たしかに同記事内においてもふれているように、これは”移行期における頻発現象である”ことも考えられるが、いずれにせよ、この記事を見て、その販売の様子が任天度による失敗ハードウェアであったWiiUを想起させることは感覚的には確かなことだ。では、WiiUはなぜ失敗したのだろうか?その理由をLifewireの記事『10 Reasons the Wii U Failed』を参考に箇条書きで書いてみよう。
★なぜWiiUは失敗したか?
・コントローラをはじめとしてインターフェース設計が杜撰だった.
・独自路線に特化しすぎサードパーティ製タイトルの囲い込みに失敗した.
・同時期にモンスターマシンPS4/XB1が世界中で発売された上ライバル機に性能で負けていた.
・カジュアル路線とコア路線の双方の失敗.
では共通項とは何か?もし失敗の科学をあたしたちが紐解けるとすれば、それは何か?もう明白だ。
もちろん、それは上述するように、専用タイトルが少ないことに他ならない。独占タイトルはほぼなく、「ブラッドボーン」がPS5向けにリテイクされた程度だ。冒頭のJ-CASTニュースの記事でも「ラチェット&クランク」最新作が小粒に目に付く程度で新鮮さが足りていないことを指摘している。よって、任天堂のWiiUをPS5の現状と重ねて想起するゲーマも多いことだろう。
他方、PS5はライバル機に性能では負けていないのはもちろんのことだ。だが、Xbox側の棟梁であるフィルはクラウドゲーミングの本格的な流通段階に入っており、加えてEAやSteamと相乗りの作戦に出てきている。対してSONYはコンソールの合一的な販売戦略から抜け出せておらず、クロスプラットフォームというシステムの設計および考え方からは明らかに洩れている。いわばMSがゲーム事業で『黒船軍団』を構成し戦いに備えているのに対して、SONYはPCでの一般的な流通を部分的に抑える『PlayStation Now on PC』という事業をさざ波のように展開しているだけだ。
これではJ-CASTニュースが当該記事にて指摘したように横タイトルと縦タイトルを打破するだけの総合的な俯瞰の立場を取ったゲーム事業にならないのではないか?という懸念はもちろんあるだろう。「MLB The Show」シリーズがそのナンバリングタイトル”21″からXBハード向けにも展開されるようになったこと有名だ。任天堂はNVIDIAと組んで、自社IP+サードパーティタイトルを多く配信、独自路線の設計思想を持つSwitchの上に盛ってきた。SONYのPS5にこれほどの画期的な部分があるだろうか?特段、気になったタイトルを購入できる機敏なハードウェアになっているだろうか?
一方でSteamを運営するValveはSwitchのライバルのようなデッキ型の携帯機であるSteamDeckを発売する。おそらくこの機種はSwitchを意識しており、現段階で公開されている携帯機の形から脱却するために、『ドックの機能』をもたらす据え置き系の公式ツールも発売・サポートするという。思えば、Valveはプラットフォームだけを提供し、そこから脱却しハードウェアにも乗り出している。それはAppleもGoogleも同じだ。
まず彼らはソフトウェア産業を押さえ、そこからハードウェア産業に再び回帰している。Appleは配信サービスに乗っかってiOSを駆使した音楽やゲーム事業でITの時代を変えた後で箱ものMacを売り込んでいるし、GoogleはYouTubeを買収、さまざまなAPIを提供できる多様なサービスを無料で公開した後、Chromebookを作り自社店舗から売りだしている。
こういった新興勢力が動き出した今、SONYはPS5という呉越同舟ではないハードウェア産業で勝てるのだろうか?今一度SONYという会社がゲーム機事業ではなく、ゲーム事業の戦略を再考しなければ、立ち行かなくなる事態にならないだろうか?
あたしの私見では、このままでは、かつて栄華を極めたSharpが失敗したようにSONYも失敗すると思う。在りし日の国産メーカSharpはハードウェアにこだわり目先の目測を見誤った。国内工場(亀山工場)は新設してはいけなかったのだ。その結果、台湾資本である鴻海の傘下に入って経営を再建せざるを得なくなった。
その間、Valveはリスクテイキングすることなく、統合型ゲーミングプラットフォームSteamでソフトウェア産業を抑えた後、SteamMachineでの失敗を踏まえ、ふたたびハードウェア産業に乗り込む気概を見せる。『黒船』は体力を長年蓄え、反撃の機会を周到に窺っていたのだ。
そして今、SONYにSharpと同じ将来が待っていないとは限らないだろう…
~Valveのような柔軟性を見いだせない現段階においては~