【連載:サルでもわかる漫画レビュー】「ワルプルギス実行委員実行する 速水螺旋人作品集」~速水螺旋人による超ド級に面白い短編漫画集 | ゲヲログ2.0

【連載:サルでもわかる漫画レビュー】「ワルプルギス実行委員実行する 速水螺旋人作品集」~速水螺旋人による超ド級に面白い短編漫画集



速水螺旋人の漫画との出会い

先日「スターリングラードの凶賊」の表紙絵とサンプル電子書籍に触発され、『この漫画家マジで当たりだ!』って確信してとりあえず「~の凶賊」と本書・短編集を買ったんですけど。本当に凄いですよ。この漫画家に焦点が今まで当たってなかったってのは、才能をうもっらせちゃう風土が日本のプロの漫画家を取り巻く状況にあるんだなと思った次第です。速水さん、1971年生まれで2023年の今は御年51ですよ?それでこの絵の上手さですよ。漫画家ってマジですげえんだなぁ、そう思わされました。

絵の上手さについて~他のポストゼロ年代漫画との比較から~

まず一点の曇りもない作画、ここは本当に評価すべき点でしょう。明確な主線で描かれていて、均整のとれたキャラクターの描画から察するに、筆致に迷いがありません。これを描きたいんだ!この漫画のためにしっかりと練習してきたんだ!っていう意気込みを漫画の単個単個から感じますね。こういう絵の上手い漫画家、ってのは今多く出てきて、下手なのは(というか正確にはヘタウマなのは)押切蓮介ぐらいじゃないでしょうか。今、漫画の作画レベルは本当に上がってますね。例えば、連載が再開した「日常」や、2023年今更感ただよう歴史モノなのに漫画賞を総なめにしている巨大な新星「天幕のジャドゥーガル」、かたや少年に青春の魔法wをかけてしまう「からかい上手の高木さん」、それに加えクール教信者の燃えて萌えられる漫画「小林さんちのメイドラゴン」、ギャグの王道と亜道を同時に行く「邪神ちゃんドロップキック」、「釣りキチ三平」以来の釣りもの漫画の最高峰として名高い「放課後ていぼう日誌」…これらの漫画史に燦然と光り輝く〈ポストモダンの傑作たち〉を前にして、それらに真っ向勝負で挑めるだけの作画のレベルです。ほんとうに絵が上手い。萌えでもなく、燃えでもなく、キャラそのものをデフォルメして描いていて、中年の男性?の漫画家が書いているとは思えない作画の品質です。萌えというよりかはデフォルメされた作画に味があって、それでいて、我ら青年漫画雑誌ヲタ(笑)に媚びることなく、純粋にキャラクターの魅力を解き放つ。そんだけのすんげー品質維持の気合を感じる。このかたは努力して漫画家になったんだろうなぁ…

作画は神レベル、ではストーリーは?

これもねー、一流なんですよ。よく言うやん?今の漫画家は作画神でもストーリーが二流とか。例えば、「侵略!イカ娘」なんかはいろいろとボロクソ言われたやんか。「よふかしのうた」でさえファンにとっては失礼だけど、ちょっとねぇ…。でもね、速水の漫画はストーリー素晴らしいんですよ。風刺もあるよ、もちろん。でもそれ頼みじゃない。風刺とともに明るめのウィットがあるんだよね、この短編集には。暗いシーンをあんまり感じさせない短編集になってて、表紙にある通りバラエティに近い。んで、最近のTVのくだらんバラエティではないんだよね。本質的に笑いの勘所を突いてるそういうバラエティなんだよね。こういうのをマジもんのバラエティっていうんですよ。んでスタンスが広い、極めて広い。帯に書いてあるけど、SF・昔話・ファンタジー・ロシア文学まで。題材を煮るっていう感覚はよくあるけど、その題材の幅・スパンがめっちゃくちゃ広いんですよ。漫画が好きで漫画だけで食っていくんじゃなくて、マジで速水には教養があるよね。単なる漫画ヲタとかアニメヲタにはできないよ、この芸当は。

具体的な個々の短編の出来は?

まず読んだのは、「ペーパーカンパニー」ですね。これもね~、漫画の段階を踏んでる漫画でね、すんげー完成度が高いんですよ。んで、少年漫画の読者層に見せても、十二分理解が行く範囲の漫画なんだよね。いっつもゲヲログでは起承転結って言ってるけど、ことあるごとに言ってるけどw…この短編も起承転結ものだよね。独立国の証がヤギの餌になっちゃうっていう話なんだけど、いろんな要素を巻き込んで、エンタメ・バラエティにアウフヘーベンされてしまっている。風刺というかエンタメ・バラエティですね。作ったもんじゃないんだよ。自然に作られた笑いを描ける漫画家がこれほどのレベルのかたが未だいただろうか?いないと思います。間違いなく、国際的に評価されるべき漫画作品です。「総選挙の魔女」も面白い題材ですね。これまた、難解さはほぼない。ユーモラスに魔女を描き、短編ゆえの構成方法をしっかりと受け取り発信している。これ単なるニセの魔女が現代の選挙運動にどうかかわるかということを描いただけの漫画ですよ?ゾンビもの(「墓が戦車でやって来る」)もあって、仮死という小説風にありがちなエフェクトも描き包んでユーモアを忘れない。あたしはこの三編が特に気に入りました。

じゃあ誰でも読めるね!難しくはない!

いやいや、そうそう性急に判断しては困る。簡単なユーモアだけ、そうとも限りませぬ。例えば、最後の編「フセスラフ人狼公の花嫁」、これは本当に難解です…いきなりこの短編集を〆る最後の編に、こういった革命的な作品を持ってくるのはいささか凄い試みだと思うんですよ。普通は漫画をクローズするときって、個々分の起承転結に沿って、章末的に最後の編も結させるじゃないですか?そう簡単に結してないんですよね、この短編集の最後のマスターピースは。これね、本当に実際に買って読んでみてほしいとしかいいようがない。すごく難しくて、起承転結どころか”起転転転”で結っする短編になってる。これだけは何度読んでもまったく理解が出来ませんでした。本当に勉強しないと理解できない一編だと思います。いわば本短編集は起承転結を表題に飾りつつも、全体として見たときに、問題提起型になっている、ということが言えると思います。こういった表現はマジで同人由来の作家にしかできない逆説的な問題提起、だと思う。いやぁ、本当に面白いものを見させてもらいましたよ。


とにかく買ってよめ!そうとしか言いようがない。漫画の天才が描いた作品です。

<イヤッホーウ!次は「大砲とスタンプ」に挑戦するZE!