レビュー「遅いインターネット」宇野常寛

レビュー「遅いインターネット」宇野常寛

本書はエッセーとしては優れてる。表現も興味深く趣向を凝らした筆致だ。

例えば、冒頭の書き出しも小説的な側面を持っていて、描き方もすごくうまいし、そこから自然に五輪の話題へと、話がつながっている。五輪が各国の経済状況を悪化させているだけという論理も納得がいくものだ。さらに話は自然に民主主義の話題へとつながるけど、ここらからちょっと甘さが出てくる。

トランプ大統領選勝因の見極めは、2020年の今回の大統領選への結果と見通しがつながらんし、単純に「アレルギー」とアメリカの労働層のありかたを断じるのも論が弱い。「民主主義を半分諦める」「立憲主義とのバランスをとる」というが、論点が各論にずれていて、大局となるビジョンはないように思える(事例に挙げられた、司法サイドの無力化は以前からずっとずっと世界的に指摘されている)。

「遅いインターネット」という結論も曖昧でこれが民主主義の趨勢やウェストファリア以後の近代主権国家像を描き替えるほどのファクターにはなりえない…NHKのドキュメンタリーにもなったけど、台湾をはじめとする「ファクトチェック」の概念ひとつとってすらもっと深いものがあると感じる。

あくまで本書は比喩・抽象主義とエセーたる評論家による本だとあたしは思う。いろんな観点からみて、総合的には”視点を提供している”ということではとてもいい本だけど、傑著ではない。あくまで『評論家』の本だと思う。