【連載:クマでも読めるブックレビュー】「日本共産党の正体」福富~共産党の歴史を紐解くうえでは役立つフツーの書・それだけ。

「日本共産党の正体」
※書影:版元ドットコムより.

あれ?これそんないい本ですかねぇ…とりあえず一番気になった点から入るけど、なんか日本語がおかしいところがある。以下、引用します。『共産党にとって厄介なのは~なことです』じゃないの?正しい文体は。『共産党にとって厄介なのは~してしまいます』って日本語になってなくない?以下原文ママ、しっかり校閲してくださいよ。せっかく世に出す形で出版してるんだから。なお、この著者の負の相関の指摘自体は悪いことじゃないです。むしろ良いことを言ってますよね。でもね、『だからどうしたの?』っていう感じです。共産党の共闘路線が共産党の議席数を減らした、それは良いよ。指摘としては。『じゃあ何?』ってなるじゃん。

野党ブームが発生すると、共産党は議席を減らします。このように共産党にとって厄介なのは、共産党は野党共闘で国民連合政権をめざしていますが、野党共闘がうまくいくと野党第一党が伸びてしまいます。このように野党第一党と共産党の関係は、負の相関関係にあります。

本書p20より

ここのみならず事実の認識というか…解釈の深度が足りないんじゃないのか?って思うシーンがいくつかありますね。これでいいのかな?ほんとに新書としてまとめているだけで、歴史を学ぶ段には役立つけどね。それ以上はほぼ中身のない書です。

例えば、共産主義がなければ、弾圧とその反動だってなかったんじゃあないのか?っていう論理は考えられないのかなぁ。近代ドイツを作り上げ、現代のドイツに至るまで影響力がとてもでかい、かの有名な鉄血宰相ビスマルクの「飴と鞭」政策だって、社会主義陣営がいたからこそ実現した政策でしょう。ある程度、社会主義的な論理は認めたうえで非合法にしたんでしょ?ビスマルクは。そして、ビスの後に続く連綿としたドイツの歴史がある…ってことは指摘せんのかい?ドイツや部分的な欧州では共産主義は非合法になったけど、そこに至るまでの歴史があるじゃん。単に共産主義=悪みたいなレッテルつけるのはやめた方が良いと思うんですよ。

んで、社会主義だって、その根っこ・根源は空想主義的な共産・社会主義であったわけでして。経済学で言えば、シュンペーターの優れた論理だってマルクスのロジックに影響されて作られたんでしょ?(シュンペーター自身がこのことは認めています)共産主義者や社会主義者には文芸家とか多いし、そういう文化創造的な側面もあってこその論理じゃないのかなあ、と思う。甚だ疑問が沸きますね。このように、一番本書の取り扱いで厄介なのは、『共産主義が一番人間を殺してきた兵器です』と断定的にだれかれの言葉をうのみにして引じて述べているところなんだよなぁ。その発言者の大家ドナルド・トランプだって間接的には民主主義とか多国間協調とかを脅かしてるばかりか、国内の分断をいっぱい生んでるじゃんか。彼による政策の悪しき面とか議事堂占拠事件で死んだ警官のことはしっかり把握せんのか?命の価値とか人生の影響力に数という重みが、どうあるべきか真剣に考えたことある?

んでさ、共産主義=核兵器以上の殺りく兵器って述べてるけど、そうは言いきれないでしょうよ。それは、共産主義やナチも含めてすべての論理を作ってきたのは人間の性悪な元来の質が問題なんじゃないのかなぁ、という大局的な考え方をできないのでしょうかね。人間の発明した最悪な兵器=共産主義っていうレッテルだけを貼って、左翼が生んできた生産的なことも含め、歴史とか政治概念・影響の概念とかそういうものをなくして、共産主義の正体を暴く!っていう単なる”ゴシップ”になりさがってないかな。山形浩生センセだって、『ピケティは「21世紀の資本」書くに当たって、マルクスの著書幾ばくかは読んでるんじゃあないかな~』って言ってたよね…。

たしかに共産主義が世界でどういう潮流にあるかってのは比較的書けている。だがそこで止まってるんだよね。共産主義がこういう危険を持ってるんだよ~、っていう指摘、それはそれで良いよ。でもそっから発展的なことを書いてくれないとオリジナルな論理にはならないじゃんw。それをするからこそ著書として解釈できるんでしょ読者は。例えば、冒頭述べた野党共闘路線だって、現実主義路線だってなんだって、ある程度の論理的修正力があるからこそ日本共産党がやってきたことやんか。『野党共闘と共産党の議席数は負の相関にあります』って…そりゃいいよ。じゃあそこから共産党の戦略とか党略はどう考えるの?共産党さんが主張してる野党共闘ってのを、あまりに軽く・単純に考えすぎてないっすかね…。

あくまで、共産主義の歴史とか常識を把握するための本で、発展的にコミュニズムを論じれるようになる本じゃないです。反面、史実や一定のレベルにある分析・着眼点は良いと思います。ちなみにあたしは共産党の擁護者でも支持者でもありませぬ。むしろ反共主義者です。