【連載:クマでも読めるブックレビュー】「かがみの孤城」~辻村深月

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確かに良く出来ています。構成もそれほど無理はないです。伏線、というほどの伏線でもありませんが、しっかり伏線らしきところ・微細なところを回収できていて良くまとまっています。文章の書き方も主人公であるこころを軸としてうまく語らせることができている。そして後半に行くに従い、多面的に人物像が描かれるので多段的かつ加速度的に面白くなっていきます。そこは評価します。

ただ、前半部・特に上巻はまどろっこしいところがあるように感じます。前述した多段的な面白さをもっと早めに持ってきたらいいんじゃあないか?とも思いますね。あと良くも悪くも文章がライトノベルみたいなんですよね。文章が薄っぺらいと感じます。例えば、この本を精読する必要があるのだろうか?とも思いました。小説とは言えども、構造主義みたいなインスピレーションを与えるような書物でない。あくまでも、大衆小説で、しかも最近のテクニカルなSFっぽさを若干混ぜているような印象を受ける。

そうだねぇ,,,例えるならば、本書の文体は綿矢さんみたいに軽いんです。描く世界観はけっして大きくはない。むしろコンパクトにまとまりすぎていて、描いている世界観がかなり小さいんですよね。これでなんらかのメッセ―ジ性を読者にしっかりと伝えられるのか?というとそうでもない。例えば、不登校に関してもっと踏み込んだ描画が出来なかったのか?という疑問もあっていいでしょう。あまり生徒の状況というものに踏み込んで悩みどころを深ーくは追っていない。だから感動できるか?というとそうでもない。泣ける人はいると思いますが、そういう方は、おそらく従来からの海外の金字塔の文学などに触れてきていないかたがかなり多いはずだ、と思います。『感動して泣きたい!』『もう切なさで泣きまくりたい!』と思うかたには海外の傑作SFとか重厚な別書をお勧めします。

結論から言うと、この小説、軽めのSF系・あるいはさらに若干ファンタジックさ要素のあるライトノベルに近いです。それほどすごい小説だとは思えませんし精読が必要なほどの構造的な多彩さを根源からもっているのか?というとそういうわけでもありません。下巻は面白かったけど絶賛されているほどの出来ではなかったですね。その分、アニメ映画化された、というのはとても納得いく点があります。かなりアニメ映画化に適した作品でその筋に近い小説です。映像化して個々人が生き生きと殻をやぶっていく様子を描くのには最適な立ち位置の小説でしょう。だからこそ、本書をあたるときはその映画化版も合わせてみる必要があると思います。そうすれば、さらに映像で補完された情報が原小説との重層さを呈していき、納得できる点・腑に落ちる点が多く出てくるように感じました。

※書影:版元ドットコムより.