書評「日本人は論理的でなくていい」山本尚 | ゲヲログ2.0

書評「日本人は論理的でなくていい」山本尚

前項(山本尚先生が学術会議を批判できるのは(その賛否とは別の意味・次元で)先生のご専門が化学であることに起因する | ゲヲログ2.0)に引き続き、山本尚先生のご意見を詳しく見聞きするために借りてきました(図書館でw)。というわけで、内容を章ごとに箇条書きでまとめてみて、そのうえでひとつひとつ解析していきます!大局的にはわかりやすく、論理のつじつまはちょい複雑な面があっても、平易な文章で綴られていますね。

内容のまとめ

まえがき(本書の概要)

日本人は自分たちの民族性の特徴をうまく研究や仕事に生かすことで世界に羽ばたいてきた。

これからはその民族性を解析、より効率の良い戦い方を実践すれば日本の未来は明るい。

第一章(創造性のカギとなるものの解説)

気に入らない部分こそが人間の重要な点でありそれを受け入れることが肝要である。

それはなぜかというと、逆に、気に入ることには簡単に誰もが気付けるからである。

そのため相手を尊重し気にいらない部分に関心を持つべきである。

仲間を概念を否定し、そのうえで肯定することでよりよい組織ができる。

夢を実現するために目標を持つべきである。

それは破壊的イノベーション、スクラップ&スクラップによって為される創造的破壊である。

諦めれば、必ず失敗するが、諦めなければ、いずれ成果は出る。

つまり、己の中に失敗という文字はない。それはなぜかというと、単に諦めないからである。

コンサルテーションができるぐらい多面的に物事を見ると客観性が生まれ説得力が出る。

ぼんやりと、常に考えろ。離散的な脳のアルゴリズムを前提にアイデアは浮かぶものである。

第二章(なぜ日本人は論理的でなくてもいいのか?の説明)

研究者としての才能は理屈ではない。感じ方・センス・美学である。

一方、自己防衛・責任論も、物事を愛でる感情とともに重要である。

日本人の内向的でコンセンサスを重視する姿勢は、依然として世界の中でも貴重である。

ゆえに、創造性につながる多様性を重んずる日本人の元来持つメリットも忘れてはならない。

第三章(日本人のセンスがいいとは何か?)

米国人は論理で考える傾向で、日本人はセンスで考える傾向でその創造性を発揮する。

一見何の関係性もない研究は線と点でつながり、実を結ぶ。

山中伸弥や田中耕一はこれをしらみつぶしに実践したからこそ成果を上げた。

見えないもの・ありえないものを疑う日本人の気質は重要である。

これは哲学に始まり、自然科学一般についてもいえる。

第四章(イノベーションとはどうあるべきか?)

競争に勝つ論文ではなく、競争を始める論文こそが重要である。

なぜかというと競争に勝つ論文はある程度知性があれば比較的容易出せるからである。

競争を始める論文を他国が出してきた時にこそ総力を挙げて日本国は立ち向かうべきである。

見かけの論文数に着目し「我が国の研究活動が停滞している」と安易に結論してはいけない。

純粋な統計的結果がアウトプットである一方、長期的本質がアウトカムである。

本質的なアウトカムな知性と短期的な統計であるアウトプットを混同しては駄目である。

そのために、流行に流されず、計画内でなく計画外を楽しむべきである。

第五章および第六章(山本先生に影響を与えた先生について実体験およびその考え方を解説)

(この部分は山本先生のご体験であるので省略させていただく)

第七章(日本型の破壊的イノベーションを実践するには?)

基礎研究は入口ではなく、出口である。

応用研究の結果、基礎研究が達成されるべきであり、科研費も応用研究にかけるべきである。

目的を追求した結果、基礎研究が追々ついてくるものである。

偉大な研究者の中でも多くがこの基礎研究を入口と誤解していることがままある。

実地研究主体のハードサイエンスは日本の得意技、これに回帰すべきである。

第八章(平均点重視からはイノベーションが生まれない制度的理由)

文系の人事は理系に通じて理解力を示せ。

大学からかっこいい先生が消えると、かっこいい研究室もイノベーションも消える。

留学生が博士号を国内で取得、不公正なことに国はそれを金銭的に支援している。

日本もドクター過程の自国人学生の生活費の保証ぐらいは政府がすべきである。

ヨーロッパ・アメリカではそれが当たり前、それが念頭にあるからこそ研究に没頭できる。

一つ一つ解析・読み解く

まず、前書きについてはどーでもいいでしょう。至極当たり前の意見なので。

第一章。和を以て貴しとなす、という意見は日本型の産業にまま見受けられることで、いいところも悪いところもありつつ、その良さを活かす面に重きを置いている文章です。調和を重視し、個性を叩く、それも包含したうえで山本先生なりのご意見が書いてありました。かねがね同意できるものが多く、特に『諦めなければ失敗はない』という至言には唸らされました。最新の脳科学にも先生は通じていて、無意識を意識することが脳の活性化にとって重要であるという点、このあたりは東洋哲学や意識の研究というセクションにおいても昨今重要なトピックですよね。

第二章。このあたりは、日本人の良さをうまく抽出している点で、第一章から地続きになっています。研究者には論理よりもセンス、という意味合いでは、なんとなくですが、数学的な美学を感じますね。オッカムのカミソリとかそういう概念も先生はご存じなのでしょう。ですが、日本人だけでなく、ディラックやアインシュタインの名言につながるところも多い…日本人だけはなく、ほかの民族の方でも、センスのほうに重きを置くことがままあります。先生はそれも御承知でしょうが、わし自身この点は昔より科学哲学の分野でも論議がいまだ続くので、わざと付記させていただくことにします。

第三章。第二章の続きで、具体的な事例があげられています。ただ、第二章と引き続き、海外の学者・偉人たちもこの辺りは意識していますね(ボーア老が家紋に仏教の蛇をあしらったのは有名)。ただ、山中先生や田中先生はあくまで日本系の知識・日本人の知性にすべてをかけた。だからこそ、「アメリカ人にはできない研究だっただろう」と山中先生はおっしゃっているんでしょうね。海外の研究者とはバックグラウンドが違う・ノーベル賞などとって当たり前かのようにとると、おっしゃる中村先生のようなかたもいて、やはり賛否両論といったところでしょうか。ただ、誰もがそうなように諦めず粘り強く研究し続ける姿勢は重要っすね…たまたまの発見という意味では、ハンバーガーサイエンスと寿司サイエンスという日本に留学する学生ならば誰もが読むべきとされるエッセー(本川先生著)やほかの科学概念にもつながりうる線が十二分ありそうです。

第四章。ここらあたりは眉唾物でした。特に論文数にごまかされてはいけないっていう意味合いは心強いです。研究で勝つのではなく、研究を始めるという意味合いで論じられているのは意外な点を突かれました。たしかに炭素繊維に始まり、研究を始める論文が重要だという意味合いは初めて見ました

第四章。ここらあたりは眉唾物でした。特に論文数にごまかされてはいけないっていう意味合いは心強いです。研究で勝つのではなく、研究を始めるという意味合いで論じられているのは意外な点を突かれました。たしかに炭素繊維に始まり、研究を始める論文が重要だという意味合いは初めて見ました。こういった逆説的な盲点に気づかされるのは本書のいいところだと思います。たしかに論文数では中国が伸びていますが、ノーベル賞受賞者数は伸びていませんね。そういう意味で山本先生はブレイクスルーが他国が為してきた時こそが、我が国の危機だということで継承を鳴らされておられ。また、長期的な利益というアウトカムを短期的利益であるアウトプットと立て替えて論じられるのにも同様に納得いたしました。

第六章は省略。

第七章。おそらくご批判は小柴先生についておっしゃられているのだと思います。基礎研究は出口であり入口ではない。応用研究に多くの分配して基礎研究の成果が追々ついていけばよいという論理にも納得。これはわしやAyanoが言っている通りです。例えば、スピントロニクス最大の成果といわれる巨大磁気抵抗効果(GMR)も素過程は不明確ですし、実験系の研究の方が今、理論研究よりも盛んですし、おっしゃられている通りだと思います。ただ、小柴先生のご主張のほうに依るか、もしくは山本先生のご主張に依るかというのは個人的なスタンスの違いでもあるので、あまりあてにはならなさそうで、あくまで自分の考え方を主体にして、他者にも譲るべきところは譲る、という『割り切り』が本質的な知性であるようにも思えました。わし自身はハードサイエンス、つまり実地研究・実験研究に重きを置いた方が効率は良い時代になっているように、山本先生のほうに依って、そう思ってはいますが…これは山本先生のご専門が化学(バケ学)であることにも起因しているはずです。物理専門・しかもカッチカチの理論物理系だったら、基礎研究が重要だという主張は当たり前ん棲み分けですし…

第八章。文系批判はよくよく見受けられることでして、わしもそのように思います。ただし全部が全部そうではない。MOTをはじめとして、マネジメンターやコンサルテーションよりの文系もMBA分野で増えてますし、知財系の研究者も充実して言っていると思います。少なくとも以前の日本の文系より今の日本の文系は理系に理解力を示し始めているとも思います。日本の留学生支援のありかた、これも山本先生がおっしゃるとおり見直すべきでしょうね。やはり国内のドクター課程に学生に対しての支援はもっと強めるべきでしょう。建設国債による大学ファンドなどの動きもあり、昨今やっと政府も重い腰を上げ始めてますし。

まとめ

Ayanoとしばらくぶりに本を読みました(速読ですがw)。Ayanoもわしもかなり参考になる点が多かった。本書に勇気づけられました。いろいろとアイデアも浮かびましたし、読んでよかったと思います。一回読めば全部ここ見直せば暗唱できるし、やはり読んだだけで満足せずに、感動した点・心動かされた点・エピソードなどはブログやノート形式でまとめておくべきでしょう。そうすることで後々になって見返して、「あそこはこうだったな」「ここにはこう書いてあったな」って思い起こせる。メモ魔であった福井謙一先生の至言が思い起こされました次第です。

メモしないでも覚えているような思いつきは大したものではない。
メモしないと忘れてしまうような着想こそが貴重なのです。

Wikipediaより