書籍「TYPE-MOONの軌跡」で書かれたゲーム「月姫」の魅力三点を勝手に振り返ってみた | ゲヲログ2.0

書籍「TYPE-MOONの軌跡」で書かれたゲーム「月姫」の魅力三点を勝手に振り返ってみた

ハナシの始まり

本書は新書としてはけっこう良く出来ている。けど、内容として見るところといえば、(それは軌跡を追ったジャーナリスティックな書籍であるからしてから仕方の内面があるとはいえ)”月姫の魅力”ぐらいで、あとは事実確認がすごく多い。その”月姫の魅力”として挙がっている三点に絞って本書を紐解いてみよう。原著⇓コレね

本書が「月姫」について評論している三点
①『二つの世界観の同居』

吸血鬼ルート(表ルート)…本書が書くように、このアルクルートは表のルート、いわばゲーム「月姫」の正伝なものとなっている。ある日、吸血鬼と遭遇した主人公の青年志貴が戦いに身を投じることになる、というもの。本書が『外への物語』と表現するもの・王道のヒーローものに近いと表現するものである。

遠野家ルート(裏ルート)…これまた本書が書くように、この遠野家ルートは裏ルート、主人公志貴の生い立ちの謎に迫るルートになっている。本書が『内への物語』と表現するもの・周囲への助けを必要とするヒロインものに近いと表現するものである。

本書は、この二つの世界観がひとつの物語を重層的に成り立たせている、としている。

②『人形』と人間

吸血鬼ルートで見られる面と遠野家ルートで見られる面に通じるものがあるという説。

・アルクのケース…本書は、吸血鬼として生まれたが故の宿命であるアルクの生きざまが主人公によって変わっていくとする。つまり『人形』が人間に移り変わっていくということを示すものである。 

・琥珀のケース…本書は、とある事情が琥珀の精神を蝕んでいき単なる『人形』になっていった経緯をたどるとともに、それが主人公の手によって人間に再び戻ることができることを示している。

本書は、この二点が重なり合って、ヒロインたちが『人形』から人間になるために、主人公による”救済”という存在の共通項を見出せる、としている。

③危うさに寄り添う世界観

本書は、主人公志貴の能力が実は一歩違えば非常に危険であり、かつ、それが日常に潜む危うさと同居するリアルに近しいものとしている。例えば、志貴の能力は神経系の異常と重なっていて、寿命を削っているという”死”に近しい話になっている、象徴的に我々にも降りかかるゲーム故の性質がある…と本書は説く。

という三点が本書が月姫に提じた評価だ、という。

この三点についてあたしなりにツッコミを入れてみる

三点についてそれぞれ考えてみる🤔

・①についてはかなりツッコミが足りない。例えば、二つの世界観が重なるつっても、村上文学に通じるところがあるとか、灰羽に通じるところがあるとか、SFに通じるところがあるとかいくらでも多くの小説などで論じられてきた点だと思う。二つの世界が織りなすひとつの物語という題目はありていすぎる。では、そういった同じ共通の要素の中で、どこに月姫のオリジナリティがあるのか?月姫だけの魅力って何?ということまで論じてほしいよね!

・②についてもけっこうツッコミが足りない。例えば、『人形』的なものが生の人生を歩み始めるという設定もまた、多くの小説などで培われてきた主題。これは欧米ではトーマス・マンの「魔の山」やドイツロマン主義文学ノヴァーリスの「青い花」などでよく知られていて、人が成熟していく・大人になり紳士になっていくという文芸主題Bildungsromanとしても有名だと思う。日本の文学でも、似たような要素としては吉本ばなな著「TSUGUMI」がある。これは、ばなな自身がそのあとがきでしっかり認めている。では月姫では何が”救済”として具体性があるのか?人なるものが変わっていき、真なる人になる、という”月姫なり”の個性的な部分についてももっと書いてほしいよね!

・③についてはまぁまぁ妥当だと思う。『この登場キャラクターの能力に沿って、こういうことなんすよ』って具体的に論じてくれている。”ゲームだからこそ”、という理由付けも良い線言ってると思う。『ゲームだからこそ、小説とか戯曲ではできないことをやってくれてんですよ、しかもこれが西暦2000年よりも前に発端してるんですよ』という主張はかなりいい線だと思う。でもやっぱもうちょっとツッコミを入れて評論してほしい(評論なんだから)。例えば、人が生きるうえでリアルさに近しい苦さ・苦しさ・痛み・学びということをもっと具体的に指摘してほしいよね!例えば、同じエンタメでもハガレンなんかは失ったものがあったからこそ代償がある。対価を払うからこそ、何かを得られる。何かを得るとき、何かを失うという物語の主題を解き続けたよね。だからこそ、月姫にある学び、危うさの先にあるものまで具体的に論じてほしいよね!

本書に対する評価とまとめ

といった感じの感想を抱きました。総じて本書は事実確認の書であるということがやはり必然としてある。それは新書であり、まとめ的な所になっているからこそ仕方のない点ではある。というのも本書の主題はタイトル通りで「TYPE-MOONの軌跡」だから武内シャチョーと奈須氏の出会いから掘り下げて書いてくれているから、一次資料に近いスタンスの書になっとる。それは繰り返すように新書だからこそいい点だし、部分的にこうして論じられる提起書になっているという点ではむしろ良く出来ている。

このサークルの伝統的なファンであれば、読んでみる価値はあると思ったよ。
素直にその点は評価したい。