漫画レビュー「推しが武道館いってくれたら死ぬ」 | ゲヲログ2.0

漫画レビュー「推しが武道館いってくれたら死ぬ」

おそらく発想は少女漫画なんでしょうね。キャラクターの描き方・独特の止まったテンポ…まさに少女漫画の王道みたいに一見見えます。昨今、言われてきている漫画界の”定説”として、『ジャンルの越境』が叫ばれて久しいですが、この漫画もそうです。少女漫画的な描き方をしておきながら、ジャンルとして、これまで言われてきたガチガチの少女漫画的内容ではないです。つまり少年漫画の人が読んでも通じるところがある…ということですね。この漫画はその成立のプロセス、少女漫画であり、少女漫画のみではないという部分になぜか感動を覚える漫画です。

主人公である、えりは岡山県の地下アイドルグループ「ChamJam」の大ファン。特に、同グループの中でも人気としては最下位である舞菜の熱狂的なファンです。あるとき、グループの紹介を受け、野外ライブで彼女を見かけたとき、舞菜に一目ぼれし、大ファンになる。パン工場に勤めるえりは、収入のほとんどをこの舞菜のファン活動に捧げます(時間もなにもかも)。服は買う資金がもったいないので、高校時代のジャージを常時着ているという、ある意味”すごすぎる”ファンです。えりと舞菜はお互いつかずはなれずの距離感を覚えながら、地下アイドルとファンの関係性を深めていきます。いつか「ChamJam」が武道館ライブを成功させること(正確には、舞菜が武道館でセンターを務める?)ことを夢見ながら、それが幻想であることもまた理解しながら…青春時代はアイドル活動にすべてが占められるというものです。

でっかい展開とかそういうものってないんですよ。そういう意味で、前述したように、止まった印象がある。むしろ、アイドルの活動・アイドルの実態にはあまりふれられておらず、アイドルとえりおよびその他Jamのファンたちが繰り広げるギャグパートのほうが多い(アニメ化でもそこは強調されてギャグパートを中心に盛られている)。それでもなぜか、漫画の内容に共感し泣いている自分がいる…マイナーなものに対するあこがれってあるじゃないですか。あれに近い。それがメジャーになってほしくて、多くの人に人気得てもらいたくて、奮闘するえりの心ゆきには感心させられれます。でもそれがメジャーになったところで、舞菜が武道館に行ってセンターを務めるような立派なアイドルになったとしても、それはそれで心理的にはいちファンとして問題でもある。だからこそ、”死んでもいい”という立派な気持ちで、『武道館で舞菜を見る』ことに挑む、という、まことにえりの心境に寄り添ったタイトルになっているわけです。主題歌である「Clover wish」はそういう儚さと夢が希望とつながって歌われる。だからこそ、儚いもろさも感じるからこそ感動するんです。

絵柄が少女漫画風というのは、止まっている印象を持つコマ割、あるいは、瞳の描き方などに見受けられる伝統的な技術だと思います。人の描き方もすべて上手で、描き分けも素晴らしい。キャラクターがこの手の漫画だと似通っていることも多いですが、ファンたちの描き分けもきちっとしていて、あまり混乱しない。まぎれもなく、上手い絵で、アイドルの綺麗さも再現されています。アニメでもそこが抑えらえていて、上品なキャラクタ―デザインがリードしている。その一方で、繰り返すように、内実は少女漫画の領域に狭まっている漫画ではない。むしろ、心境とかは現役のアイドルファンも含めて男子も安心して読めるんじゃないかな。もちろん、アイドルファンをやめたかたにこそ、響くものがあるでしょう。

このマイナーなアイドル舞菜とそのファンであるえりにフォーカスした漫画だからこそ…

アイキャッチ画像:Twitterより