面白い試みだ。本書はネットブログ、しかもデザインに趣向を凝らしたものではなく、あくまでテキストとゲーム画像ベースの単純なブログの連載を小説化したものであり、それがさらに好評を博し、ドラマ・映画化されたという。
かいつまんで書くと、著者であるマイディーはガンを持つ父親を元気づけようと、その父とネトゲでつながりを求めることを思いつき、PS4とFFオンラインゲームを渡す。そこからネトゲライフが父と子を主軸に始まり、ともに、冒険し戦い、エンディングを迎えるという。その内実をガンの父にカミングアウトしたところで、この話はユーモアにあふれながらも涙とともに幕を閉じる…ゲームを介した人生の物語だ。
まず、評価される点は着眼点が素晴らしいところだ。ネトゲを主軸に人生を語る、しかも自然に語っていくっていうのは非常に着眼点として優れている。例えば、ゲーム通じない人にもある種響くものがあるし、ゲーマーとしても納得のいく合理性がこのストーリー設定にはある。ネトゲという”異種物”を介し、ひととひとがつながるという設定性は素晴らしく、読者に新鮮さを冒頭から与え続け、短めの全体像に突き抜けるような感触を与えてくれる。
次に評価すべき点はプロットシーン(事態)の深刻さであり、本質的な人間の生きる苦しみということを真っ向勝負で、独自に考え付いた特殊なストーリーとともにそれを描き切った点だ。聞くところによれば、マイディー自身もガンで死去されてるそうで…これが我々の運命なのだ―『生きるからこそ死ぬ』ダイの大冒険でポップが母親に言われたように、人間は生きるからこそ死ぬのであり、また死ぬからこそ生きる。それを彼自身の人生・彼の父親の人生・そしてこの話の終わり方と一致してつながる点こそが本書の本質だ。
サイトは残ってはいるが、マイディーはもう戻ってこない。だからこそ、ちょっと結論からカッコつけて書くと、マイディーは彼自身の父親と再会し、さらに”もういなくなった”ネトゲ仲間とともに、未来で、来世で、再会する。現世ではネトゲ仲間だった、父と子の物語。そこには新しいひとつの世界がもう先人たちとともに広がっており、そこから新しい冒険譚はもう始まっている。
— あげ🥺 (@h_ff_0811) November 17, 2020
エオルゼアの世界の快晴の空のような景色の下とともに。