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竜トール・ウィーン・それと多文化共栄の物語

竜トール・ウィーン・それと多文化共栄の物語

あたしもAmazonで「小林さんちのメイドラゴン(10)」のレビューを見ていてはっとさせられた。とある、レビューアー曰く、この物語は単純なコメディものでなく、LGBTやBLMといった多文化共存の在り方を描いたものだ、というのだ。「分断を克服し再生に至る物語として捉えるのはどうか?」というわけだ。

たしかにトールやそのほかの竜族に派閥のようなもの、人間も含めた様々な種別のいきものがこの漫画には登場する。そのうちのどれもが種族の境界となるライン・分断線を超え、己の存在を意識しながら、物語の中で共存しあう…という様相を呈している。また、その存在をLGBT/BLMなどと照らし合わせるというのは、昨今の現実の情勢を考えれば、あながち間違っていない指摘であるようにあたしは思う。たしかに漫画やアニメーションは理想やありえない現実から離れた”発展形”を考えるものであるのに間違いない。だが、そこにリアリズムを少なくともある程度は織り交ぜることで、文化的称揚の立場にまで作品自体が立起するものだからこそ、あたしはそう考えるのだ。反面、理想ばかりを騙る漫画は、リアリズムの肝要な点をまったく押さえないので、我々人間が物語としてこれらを読むとき、なんの共感も生まず、その性質の中に埋没してしまい、価値のないものとして評されることがあるのもしばしばだ。はっきり言ってしまえば、ご都合主義的すぎる漫画やアニメーションはいらないのだ。

あたしなりに、トールなどの立脚するメイドラゴンの物語と並行し、現実の世界で考え思いつくのはいわゆる世紀末ウィーンのことである。あたしはハンガリー・オーストリア帝国下の一介の小都市、『音楽の都』程度にしかウィーンのことなどは考えていなかった。だがそれは”大間違い”である。19世紀末、このウィーンという小都市から出た文化的豊潤は世界中に大きな影響を与えた。絵画・音楽・文学・哲学に始まり物理化学・精神分析・経済思想までなにからなにまでが、今に至るまで後世に鋭い視点を呈し続けているのだ。クリムト・ホーフマンスタール・カフカ・ウィトゲンシュタイン・ボルツマン・メンデル・マッハ・フロイト・シュンペーター…多文化が混ざり合うとき、奇跡的なカルチャリズムが生じ、それが現実の世界に文化的繁栄をもたらした一面をこの都市に我々は見ることができる。

なぜこのような帝国主義下の弱小な小都市にこれほどまでの文化的豊潤があったのだろうか?この時代のウィーンがなければ我々の現代の生活は成り立っていないといっても過言ではない。特に理化学系、物理や化学の発展およびその根源的な思想や経済の部分は我々の生活に強く強く影響を与え続けている。例えば、ボルツマンやマッハの業績なくして、現代統計物理学を語れるだろうか?メンデルの理論なくして、遺伝子工学を語れるだろうか?シュンペーターなくして、マルクスを再起できるだろうか?ピケティを評せるだろうか?カフカの「変身」…この小説がなければ、インスピレーションを得ることなく散った偉大な文化人も多くいたことだろう。フロイトの精神分析理論はたしかに後世にあっては、アメリカ精神医学会の立場からは否定されたが、彼の作ったモデルで救われたひとも多くいた、と現場の精神科医が言っていたことを、あたしは思い出す。

このように、カウンターカルチャーと並んで高い文化力をもたらす要素が、多文化の共存および共栄である。その混沌より多くの文化多様性がミクスチャした結果、偉大なパワー、ダイナミズムが現れる。そして、残念ながら、現代のアメリカにはその兆候がまったくないと言わざるを得ない。

聞けば、サラダボウルという人種の比喩には深い意味があるという。我々がケーキを焼くときに練る生地のように、それは混ざり合っていない。サラダボウルとケーキの生地では意味合いが違うというわけだ。混ざり合いのない混沌に意味を見いだせないサラダボウルには文化的衰退が訪れ、ケーキの生地のような創造的カオスには文化的豊潤が生まれる。多文化の共存というものは、内戦の熾烈な原因になったり、その反面、ハイパーカルチャーを生む源になったりする。サッカーで例えれば、旧ユーゴスラビアが世界最強に君臨していた、かつての時代のことである。

トールは確かに空想の世界に住む、一介の竜にすぎないし、トールのいる世界は「メイドラゴン」という漫画の中にすぎない。ただし、多様性の生きる、豊潤な世のありかたを描いている点においては我々に多大なるインスピレーションを与えてくれている…というレビューは、大方的を得ているどころか、我々自身の評論の水準を最適化してくれているようにすら思える。そういう意味ではこの漫画は実に偉大な、空想的理想主義とリアリズムの境地に同時に至った、クール教信者の傑作なのかもしれない。

―アイキャッチはTVアニメ「小林さんちのメイドラゴン」公式サイト
より引じさせていただきましたー

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