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傑作SF小説「夏への扉」に見る技術社会のありかた

傑作SF小説「夏への扉」に見る技術社会のありかた

訳者の福島正実が語るところによれば、これほど現実的かつ理想的な小説もないという。技術的には現実的で、ストーリーの本筋は理想に満ち溢れている。福島が言うこと、もう本書の末尾にあとがきで見事な筆致で書かれているのでぐうの音も出ないほど…。ここでその類の話をしても意味がないので、技術の小話をしたいと思う。

あたしも実際技科系工科系のとこに通ってた経験はあるので、このあたりの納得具合はようわかる。例えば、主人公ダンは工場長のワーカーとしての能力を「人当たりは良いのだが、仕事の腕はいまいち」だと、作品内で評したり、マイルズやその他のアカデミズムに毒された技術者を騙る非技術的な人間を強く批判する話がこの小説の中であたしが印象深く残っている。もちろん本来は技術的な話だけではSF小説として、またこのような理想的な部分なくして成り立たないのだけれども、この小説のすごいところは技術者がどうあるべきか、を呈しているところだとあたしは考えている。

実際あたしの先輩にもこの小説の主人公ダンと同じような技術屋はある程度いた。そういう人は技術でバンバン製品作って仕事に勝手に『作ったもの』を活用するので、高く評価され昇進していく。反面、技術屋ではないほうは、コンサルタントがらみの話ばかりでエクセルとかワードとかと向き合っている…と、そういった技術に長けた先輩方は非技術屋のことを厳しく酷評していた。つまり、ダンと同じ意見を持っている先輩方、技術屋の優秀な人ってのは現実に一定数いる。アメリカではセグウェイの開発者(ディーン・ケーメン)が有名だし、ボトムズの縮尺版を作った鉄工家も日本にいたっけ…たしかにこの部分は小説内といえども、ニュアンスとしてはまさしくリアリズムの境地な話なんである。

ダンのようなレベルの技術屋ってのは特定の知識をもっているわけではなく、全部独学で実力・実学をしっかり身に着けてきた人たちのこと。大学ではフォーミュラーカーのコンテストがあったり、川崎ロボット競技大会のサークルがあったり、ロボワン参戦サークルがあったり、それこそ鳥人間コンテストがあるよな。工夫すれば、誰もがダンに近づける環境が整備されてきたといえる。昔、東海大学の林教授が言ってたけど、偏差値だけじゃない部分は工科系にはあるし、それができなければ、高度な学術的な意味は無知無毛に徹してしまうとあたし自身も思う。つまり工学的なエンジニアのセンスが必要とされるという意味合いでは、この小説は面白い話題を提供してくれている。「エクセルやワードに凝って、素人コンサルをやっているのであれば、電子工作でもやっておけ!」というわけだ。工学部に入ったのであれば、そういったテクニカルな部位も身に着けてほしい、という意見には納得がいくってものだ。

例えば、工業力学・材料工学なんて実際の設計には使わないし、(相当高度なものを除いて)有限要素法なんてものも使わない。工学のアカデミックな部分とそのテクニカルな部分はまったく違う要素なんだ。そして、生きていく技術を身に着けるのであれば、後者のほうが俄然重要である。「技術はトントン、問題は文章力だ!」と反論するかたもいるかもしれんけど、本来これって間違ってる。実学重視ってのはロボット作れたり、そのモーション作れたり、CAD使ったり組み込みしたり、イノベーティブな部分を大事にするってことだ。独立してもそれ一本で生きていけることを実学重視っていうんであって、アカデミズムに毒された、非技術屋のことをいうわけじゃない。ダンはこのように批判的に、アカデミックな面を、この小説内でマネジメンター(笑)として徹底的に批判するんだな。これは工科系の学生だったのであればある程度は誰もが納得のいく論理だ。

とにもかくにも実学重視ってのは機械設計が独学で高度にできたり、旋盤動かせてもの作れたり、CNC・ボール盤なんでも自由自在に取り扱えることを言うんだ。そのスタンスから言えば、学校の成績が良くてもこういう面がないと、工科系の高等教育機関に入った意味はないともいえる。あたしもSやA評価はそろえたが、あまり褒められたことじゃないと思う。なにも工学に徹しなくてもいい、統計学でもプログラミングでもなんでも、センスがあって対抗できる人材になりたいなーって、いっつもこのSFを読むたび思わされる。

なんにせよ、(福島はあとがきで絶賛してたけど…)SF評論家の意見が分かれて、SFファンの間では伝説級の小説になっているのにはおそらくしっかりとした理由があるんだろうな。

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